7月15日、あなたに告白します。

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「日野永です!北中出身で、部活は吹奏楽に入ろうと思ってます!よろしくお願いしますっ!」


 教卓でその子が頭を下げると、教室に拍手が起こる。


「はいありがとう。じゃあ次の人―――」


 ヒノハルカ、と俺は口の中でつぶやいた。
 それは偶然か必然か――――俺の初恋の人と同じ名前だったから。

 保育園のころ、近所のお祭りで会った同い年の女の子。

 再会の約束を忘れてはいなかったけど、半ばあきらめてはいた。
 でも恋愛に興味はなかったし、友達にその手の話題を振られたらその話をして逃げていた。

 現実味のない、それでいてちょうどいい思い出話。
 そのくらいの感覚だった。


(・・・でも、もしかしたら)


 もし、もしもあの子が約束の子なら・・・。


 俺は高校入学して早々、気になる人ができてしまった。
 おそらく人生で初めて。


「あのっ!」


 最初の会話を交わしたのは、たぶん合宿レクリエーションのとき。


「・・・なに?」


 緊張のあまり固すぎる声が、俺の喉から出たのを覚えている。
 日野はそれにビビったのか、少しだけ顔をひきつらせた。


(・・・あ、待って、えと、なんて、言えばいい・・・?)


 自分が不愛想で、女子から怖がられがちなことを自覚してはいた。

 これまではそれで困ったことなんてなかったけど・・・。


「―――――あ、」

「日野さん、どうかした?」


 何か言いつのろうとした俺の声に被ったのは、清翔の声。


「あ、あのねっ、今日の夜の班長会議、開始時間が変わるらしくて、各班に連絡してまわってて・・・!」


 清翔が話しだした途端、ほっとしたような表情で話し出す日野。
 この手のこと、中学までもよくあったんだけど・・・。


「そっか、わかった。教えてくれてありがとう」

「うんっ!」


 嬉しそうに顔をほころばせる日野を見て、俺は思わず顔をそむけた。


(・・・大丈夫、まだ引き返せる)


 日野が約束の子かどうかなんて、確証はない。
 約束の子かもしれないと思って意識しているだけで、好きになったわけじゃない。

 なんとなくずっと、入学してから自分にそう言い聞かせていた。


「―――――え、なんで!?」


 合宿レクリエーション二日目。
 和やかな雰囲気の中、一つだけ動揺が走った班があった。


「お米炊けてないんだけど・・・!」

「は!?なんで・・・!?」

「担当した人だれ・・・!?普通に今から炊きなおしても間に合わねーし・・・!」


 俺はたまたまその一場面を見ていて、その様子に思わず足を止めた。
 そしてそれが日野の班だと気がついた。


「一応あたしもやったけど、でも一人でやったわけじゃないし・・・」

「なんでこんなことなんの、ちゃんと手順通りやればさ―――――」

「よし!!」


 若干口論になりかけていたのをぶった切るように、日野が声を上げた。


「こうなった以上はしかたないから!私、他の班まわって余ったお米ないか確認してみるよ!」


 そう言って、日野はなんてことないといった感じで満面の笑みを浮かべる。


「田原くんと葵ちゃんは、作業がまだ残ってるみたいだから続きをしてて!他の子は同じクラスの班を手分けしてまわってほしい!私、他クラスの班をまわってみるね!」


 そう自信満々に話す日野の声は・・・少しだけ震えていて。

 思わぬハプニングに、動揺しないわけがない。
 入学したての、しかも他クラスの班をまわるなんて、緊張しないわけがない。

 でもそれをおくびにも出さず・・・。


「・・・あの!」


 俺は気づけば日野に話しかけていた。
 びっくりしたような顔の日野に、俺は何といったものかと困りながら言葉を継ぐ。


「・・・俺の班、米あまってたはず、だから・・・とってくる。あの、同じクラスの3班で・・・」

「!」


 びっくりした表情の日野の顔が、少しづつ緩んで。


「・・・あっ、ありがとう・・・!佐倉くん!!」

「・・・っ」


 安堵したようにほころんだ。
 その顔が・・・はるか昔に見た、約束の女の子の姿と重なった。

 涙を流していたのに、俺を見て安堵したようにほころんだあの瞬間に。


「・・・・い、ってくる・・・!」


 俺は動揺を悟られないよう、慌てて踵を返した。

 その瞬間、確信した。
 日野があの約束の女の子なんだと。


 そして・・・自分の気持ちはもう、引き返せそうにもないのだと。