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以前までの周で知っていた通り、やはり保健室の先生は不在にしていた。
「ちょっと待っててね、救急箱持ってくる」
天ヶ崎くんは私を椅子に座らせ、救急箱を取りに行ってくれる。
私は自分の置かれた状況に戸惑いつつ、静かに椅子に座った。
(・・・さっきの)
こんな状況なのに。
頭の中に浮かぶのは、佐倉くんのこと。
(佐倉くん、当然だけど見てたよね・・・)
もちろん、真っ先に駆け寄ってきてほしいなんてワガママは言わない。
・・・いや、もちろんそうしてくれたら飛び上がるぐらい嬉しいけど。
でも天ヶ崎くんが私を引き寄せる瞬間、佐倉くんはどう思ったかな。
ちょっとだけ妬いてくれたりしないかな。
今この瞬間、私のことを少しでも心配してくれてるかな。
(・・・佐倉くん)
佐倉くんがいるであろうグラウンドの方向へ目を向ける。
「・・・日野さん」
「あっはい!」
思考にふけっていて、少し声が裏返ってしまった。
「氷嚢あったから持ってきた。これ使って?」
「あ、ありがとう・・・」
あたった瞬間はなんともないと思ったけれど、冷静になると右頬が熱を帯びているのがわかる。
私はありがたく氷嚢を受け取る。
「・・・あ、待って」
さっそく頬に氷嚢をあてようと伸ばした腕を、天ヶ崎くんに優しく握られる。
「えっ」
「・・・頬、砂がついてるね。ちょっと待ってね」
用意周到な彼は濡らしたタオルまで持ってきていたようで。
まるで割れ物に触れるかのような手つきで、私の頬を優しく拭う。
「あ・・・え、あ、じ、じぶ・・・あ・・・」
あまりにも想定外の状況に、自分でできるから、の一言さえ動揺して言えない。
動揺している隙に砂をふき取ってくれたのか、天ヶ崎くんの手が離れていく。
「あ、ありがと・・・う・・・?」
「・・・ふ、なんで疑問形なの?」
苦笑交じりに微笑む天ヶ崎くん。
私はその笑顔にさえ動揺を覚えながら、静かに氷嚢を頬にあてた。
なぜこんな状況に・・・。
と、また思考の海に沈む。
「・・・日野さん、今日は踏切で会わなかったね」
思考の海に沈む私を天ヶ崎くんの声が引き戻す。
「あ、うん。・・・自転車のタイヤがパンクしちゃってて、それでバスで来たの」
「そっか、だから応助と登校してきたんだ」
天ヶ崎くんが窓の外へ目をやる。
そこを見ているのかと思ったら、たぶんグラウンドのほう。
「・・・日野さん、はさ・・・」
天ヶ崎くんがグラウンドを見つめたまま、ぽつりとつぶやく。
けれどその後沈黙がよぎる。
私は氷嚢のひんやりとした感覚だけを感じながら、静かに続く言葉を待った。
7月の中旬ともなれば、セミも盛んに鳴いていて、沈黙の続く保健室を支配する。
「・・・好きな人とか、いるの?」
「えっ」
さっきまで頭を支配していた佐倉くんが、またもよみがえる。
低くて温かい声、大きな手のひらの感触。
不器用な微笑み、赤くなった耳。
思い出すほど、否定なんてできない。
私は・・・佐倉くんが好きだ。
「・・・・っ」
それを伝えたくて、私はまっすぐに天ヶ崎くんを見た。
でも私が口を開く前に、天ヶ崎くんが先に言葉を発した。
まるで私を先回りするみたいに。
「・・・僕じゃだめかな?」
「・・・え?」
耳を疑うような天ヶ崎くんの言葉。
思わず何も言えないでいると、静まり返った保健室の外から、物音が聞こえた・・・気がした。
私は・・・なんだか嫌な予感がして。
「・・・・」
「・・・日野さん?」
突然立ち上がった私を、天ヶ崎くんが怪訝そうに呼び止める。
私は、はやる気持ちで保健室の扉を開け――――。
「・・・佐倉くん!」
廊下のずいぶん先に駆け去って行く背中。
私の声は届いたのか届かなかったのか、その姿は突き当たりを曲がって、一瞬にして見えなくなった。
それでも・・・よく見慣れた、大好きな面影を感じた。
「・・・・」
立ち尽くす私。
天ヶ崎くんも、何言うことはなくて。
私たちはただ、授業の終わりのチャイムが鳴るまで、保健室から動けなかった。
以前までの周で知っていた通り、やはり保健室の先生は不在にしていた。
「ちょっと待っててね、救急箱持ってくる」
天ヶ崎くんは私を椅子に座らせ、救急箱を取りに行ってくれる。
私は自分の置かれた状況に戸惑いつつ、静かに椅子に座った。
(・・・さっきの)
こんな状況なのに。
頭の中に浮かぶのは、佐倉くんのこと。
(佐倉くん、当然だけど見てたよね・・・)
もちろん、真っ先に駆け寄ってきてほしいなんてワガママは言わない。
・・・いや、もちろんそうしてくれたら飛び上がるぐらい嬉しいけど。
でも天ヶ崎くんが私を引き寄せる瞬間、佐倉くんはどう思ったかな。
ちょっとだけ妬いてくれたりしないかな。
今この瞬間、私のことを少しでも心配してくれてるかな。
(・・・佐倉くん)
佐倉くんがいるであろうグラウンドの方向へ目を向ける。
「・・・日野さん」
「あっはい!」
思考にふけっていて、少し声が裏返ってしまった。
「氷嚢あったから持ってきた。これ使って?」
「あ、ありがとう・・・」
あたった瞬間はなんともないと思ったけれど、冷静になると右頬が熱を帯びているのがわかる。
私はありがたく氷嚢を受け取る。
「・・・あ、待って」
さっそく頬に氷嚢をあてようと伸ばした腕を、天ヶ崎くんに優しく握られる。
「えっ」
「・・・頬、砂がついてるね。ちょっと待ってね」
用意周到な彼は濡らしたタオルまで持ってきていたようで。
まるで割れ物に触れるかのような手つきで、私の頬を優しく拭う。
「あ・・・え、あ、じ、じぶ・・・あ・・・」
あまりにも想定外の状況に、自分でできるから、の一言さえ動揺して言えない。
動揺している隙に砂をふき取ってくれたのか、天ヶ崎くんの手が離れていく。
「あ、ありがと・・・う・・・?」
「・・・ふ、なんで疑問形なの?」
苦笑交じりに微笑む天ヶ崎くん。
私はその笑顔にさえ動揺を覚えながら、静かに氷嚢を頬にあてた。
なぜこんな状況に・・・。
と、また思考の海に沈む。
「・・・日野さん、今日は踏切で会わなかったね」
思考の海に沈む私を天ヶ崎くんの声が引き戻す。
「あ、うん。・・・自転車のタイヤがパンクしちゃってて、それでバスで来たの」
「そっか、だから応助と登校してきたんだ」
天ヶ崎くんが窓の外へ目をやる。
そこを見ているのかと思ったら、たぶんグラウンドのほう。
「・・・日野さん、はさ・・・」
天ヶ崎くんがグラウンドを見つめたまま、ぽつりとつぶやく。
けれどその後沈黙がよぎる。
私は氷嚢のひんやりとした感覚だけを感じながら、静かに続く言葉を待った。
7月の中旬ともなれば、セミも盛んに鳴いていて、沈黙の続く保健室を支配する。
「・・・好きな人とか、いるの?」
「えっ」
さっきまで頭を支配していた佐倉くんが、またもよみがえる。
低くて温かい声、大きな手のひらの感触。
不器用な微笑み、赤くなった耳。
思い出すほど、否定なんてできない。
私は・・・佐倉くんが好きだ。
「・・・・っ」
それを伝えたくて、私はまっすぐに天ヶ崎くんを見た。
でも私が口を開く前に、天ヶ崎くんが先に言葉を発した。
まるで私を先回りするみたいに。
「・・・僕じゃだめかな?」
「・・・え?」
耳を疑うような天ヶ崎くんの言葉。
思わず何も言えないでいると、静まり返った保健室の外から、物音が聞こえた・・・気がした。
私は・・・なんだか嫌な予感がして。
「・・・・」
「・・・日野さん?」
突然立ち上がった私を、天ヶ崎くんが怪訝そうに呼び止める。
私は、はやる気持ちで保健室の扉を開け――――。
「・・・佐倉くん!」
廊下のずいぶん先に駆け去って行く背中。
私の声は届いたのか届かなかったのか、その姿は突き当たりを曲がって、一瞬にして見えなくなった。
それでも・・・よく見慣れた、大好きな面影を感じた。
「・・・・」
立ち尽くす私。
天ヶ崎くんも、何言うことはなくて。
私たちはただ、授業の終わりのチャイムが鳴るまで、保健室から動けなかった。


