7月15日、あなたに告白します。

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 以前までの周で知っていた通り、やはり保健室の先生は不在にしていた。


「ちょっと待っててね、救急箱持ってくる」


 天ヶ崎くんは私を椅子に座らせ、救急箱を取りに行ってくれる。
 私は自分の置かれた状況に戸惑いつつ、静かに椅子に座った。


(・・・さっきの)


 こんな状況なのに。
 頭の中に浮かぶのは、佐倉くんのこと。


(佐倉くん、当然だけど見てたよね・・・)


 もちろん、真っ先に駆け寄ってきてほしいなんてワガママは言わない。
 ・・・いや、もちろんそうしてくれたら飛び上がるぐらい嬉しいけど。

 でも天ヶ崎くんが私を引き寄せる瞬間、佐倉くんはどう思ったかな。

 ちょっとだけ妬いてくれたりしないかな。
 今この瞬間、私のことを少しでも心配してくれてるかな。


(・・・佐倉くん)


 佐倉くんがいるであろうグラウンドの方向へ目を向ける。


「・・・日野さん」

「あっはい!」


 思考にふけっていて、少し声が裏返ってしまった。


「氷嚢あったから持ってきた。これ使って?」

「あ、ありがとう・・・」


 あたった瞬間はなんともないと思ったけれど、冷静になると右頬が熱を帯びているのがわかる。
 私はありがたく氷嚢を受け取る。


「・・・あ、待って」


 さっそく頬に氷嚢をあてようと伸ばした腕を、天ヶ崎くんに優しく握られる。


「えっ」

「・・・頬、砂がついてるね。ちょっと待ってね」


 用意周到な彼は濡らしたタオルまで持ってきていたようで。
 まるで割れ物に触れるかのような手つきで、私の頬を優しく拭う。


「あ・・・え、あ、じ、じぶ・・・あ・・・」


 あまりにも想定外の状況に、自分でできるから、の一言さえ動揺して言えない。
 動揺している隙に砂をふき取ってくれたのか、天ヶ崎くんの手が離れていく。


「あ、ありがと・・・う・・・?」

「・・・ふ、なんで疑問形なの?」


 苦笑交じりに微笑む天ヶ崎くん。
 私はその笑顔にさえ動揺を覚えながら、静かに氷嚢を頬にあてた。

 なぜこんな状況に・・・。

 と、また思考の海に沈む。


「・・・日野さん、今日は踏切で会わなかったね」


 思考の海に沈む私を天ヶ崎くんの声が引き戻す。


「あ、うん。・・・自転車のタイヤがパンクしちゃってて、それでバスで来たの」

「そっか、だから応助と登校してきたんだ」


 天ヶ崎くんが窓の外へ目をやる。
 そこを見ているのかと思ったら、たぶんグラウンドのほう。


「・・・日野さん、はさ・・・」


 天ヶ崎くんがグラウンドを見つめたまま、ぽつりとつぶやく。
 けれどその後沈黙がよぎる。

 私は氷嚢のひんやりとした感覚だけを感じながら、静かに続く言葉を待った。

 7月の中旬ともなれば、セミも盛んに鳴いていて、沈黙の続く保健室を支配する。


「・・・好きな人とか、いるの?」

「えっ」


 さっきまで頭を支配していた佐倉くんが、またもよみがえる。

 低くて温かい声、大きな手のひらの感触。
 不器用な微笑み、赤くなった耳。

 思い出すほど、否定なんてできない。
 私は・・・佐倉くんが好きだ。


「・・・・っ」


 それを伝えたくて、私はまっすぐに天ヶ崎くんを見た。

 でも私が口を開く前に、天ヶ崎くんが先に言葉を発した。
 まるで私を先回りするみたいに。


「・・・僕じゃだめかな?」

「・・・え?」


 耳を疑うような天ヶ崎くんの言葉。

 思わず何も言えないでいると、静まり返った保健室の外から、物音が聞こえた・・・気がした。

 私は・・・なんだか嫌な予感がして。


「・・・・」

「・・・日野さん?」


 突然立ち上がった私を、天ヶ崎くんが怪訝そうに呼び止める。

 私は、はやる気持ちで保健室の扉を開け――――。


「・・・佐倉くん!」


 廊下のずいぶん先に駆け去って行く背中。
 私の声は届いたのか届かなかったのか、その姿は突き当たりを曲がって、一瞬にして見えなくなった。

 それでも・・・よく見慣れた、大好きな面影を感じた。


「・・・・」


 立ち尽くす私。
 天ヶ崎くんも、何言うことはなくて。

 私たちはただ、授業の終わりのチャイムが鳴るまで、保健室から動けなかった。