7月15日、あなたに告白します。

========



「佐倉くん」


 私の言葉で佐倉くんが驚いたように勢いよく振り返った。
 教室を出た彼のあとを、私は追いかけてきたのだ。


「下駄箱行くんでしょ?私もいっしょに行ってもいい?」


 私は上履きを履いていない自分の足元を指さす。

 始業ギリギリのバスで来て、なんの変哲もなく交通規制に引っかかって、なんの変哲もなく坂田先生に捕まって、なんの変哲もなく靴下のまま一時間目を受けた。

 坂田先生に捕まらないためのアレコレはしなかった。
 だって、せっかく佐倉くんと話せるチャンスだもの。


「・・・いい、けど・・・」


 佐倉くんは戸惑った様子でうなずく。


「・・・私がついてくるの、嫌だった?」

「いやっ!そんなことはなくて!」


 焦って否定する佐倉くん。
 佐倉くんらしい不器用さが垣間見えて、つい笑みがこぼれる。


「・・・日野とちゃんと話すの初めてだから、びっくりしただけ」

「そうだね」


 私からすれば、何度も何度も話してきたんだけど。
 もどかしい気持ちを隠しながら、私は言葉を続ける。


「でも今日の朝話してみて・・・なんか、もっと佐倉くんのこと知りたくなったの」

「えっ」


 佐倉くんが動揺して足を止める。
 私もつられて足を止める。


「だからさ、その・・・今日、帰り・・・。あの、どうせ坂田先生の話いっしょに聞くでしょ、だからね、あの・・・」

「・・・・」

「帰り、いっしょにどう、ですか・・・?」


 あ、やばい。
 天ヶ崎くんへの告白でずいぶんと慣れたつもりだったのに。

 なんか、全然違う。
 天ヶ崎くんはすっごく高嶺の花で、そんな彼だからこそ憧れている自分もいて・・・初めからどこか諦めていた。

 でも佐倉くんは、私だけが知る、私だけに見せる表情を知ってしまったから。
 期待と不安と緊張で、全身の血が沸騰しそう。


「・・・お、俺でよければ・・・」


 おずおずと佐倉くんが口に出す。
 その瞬間、今度は安堵と歓喜が身を包む。

 こんなジェットコースターみたいなの、身が持たない。

 私はいてもたってもいられないような気持ちのまま、歩き出す。


「佐倉くんて、お休みの日は何してるの?」

「うーん、漫画読んだり、ゲームしたり」

「そうなんだ、オススメの漫画とかない?夏休み中読めそうなのとか!」

「んー、ちょっと長いやつでもいいなら、例えば・・・」


 下駄箱に向かうまでの、ほんの短い距離。
 私は時間を惜しむようにゆっくりと歩いた。

 上履きを履いて、またゆっくりと教室に戻る。


「見てみて佐倉くん、文化祭実行委員の募集ポスターだって」


 私は掲示板の前で足を止める。
 それにつられて佐倉くんも足を止める。


「へぇ、この学校の文化祭、結構盛大らしいしな。日野はこういうの興味あるのか?」

「うん!中学のときもやってたんだよ!」

「あ、なんかイメージ通りだ」

「そうなの?え、私ってどういうイメージ?」


 隣に立つ佐倉くんを見上げると、佐倉くんも私を見ていたから、不意に目が合う。


「あっ」


 佐倉くんはパッと私から目をそらす。
 それでも耳がほんのり赤くなっているのが目に留まって。

 それが愛おしくて、私はつい佐倉くんの顔をのぞき込む。


「ねぇねぇ、どういうイメージ?」

「・・・行動力ある、感じのイメージ・・・」


 言いながら佐倉くんはさらに顔をそむける。
 私は反対側から回って佐倉くんの顔をのぞきこむ。


「ほんと?」

「・・・ああ」


 佐倉くんも負けじと反対側に顔をそらし、私の視線から逃れる。
 その姿の、なんと微笑ましいことか。


「・・・ふふっ」


 思わず笑ってしまった私。
 つられたように、首をそむけていたはずの佐倉くんの肩も小さく震える。


「・・・・ふ、ふふ」

「あははっ」


 思わず二人して笑ってしまった。
 そして改めて、佐倉くんと目が合う。


「・・・なんか、こうして改まってみると照れるね」

「・・・そういうのを口に出すから照れるんだろ」


 なんて話していたら、予鈴が鳴る。


「あっやばい!」


 一時間目も遅刻し、二時間目も、なんてさすがに内申点に響きすぎる。
 私たちは焦りながら、もう生徒もまばらな廊下をあわてて駆ける。


「おーい、お前ら早く席着けー」


 数学の先生の声を背中に受けながら、二人して教室にすべりこむ。
 お互い急いで席に着いた瞬間、本鈴が鳴った。


「起立、気を付けー」


 日直の号令を聞きながら、佐倉くんが一瞬振り返る。
 そして小さく私に微笑んだ。

 そんな私たちを――――天ヶ崎くんが静かに見つめていたことに、私は気づかなかった。