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「佐倉くん」
私の言葉で佐倉くんが驚いたように勢いよく振り返った。
教室を出た彼のあとを、私は追いかけてきたのだ。
「下駄箱行くんでしょ?私もいっしょに行ってもいい?」
私は上履きを履いていない自分の足元を指さす。
始業ギリギリのバスで来て、なんの変哲もなく交通規制に引っかかって、なんの変哲もなく坂田先生に捕まって、なんの変哲もなく靴下のまま一時間目を受けた。
坂田先生に捕まらないためのアレコレはしなかった。
だって、せっかく佐倉くんと話せるチャンスだもの。
「・・・いい、けど・・・」
佐倉くんは戸惑った様子でうなずく。
「・・・私がついてくるの、嫌だった?」
「いやっ!そんなことはなくて!」
焦って否定する佐倉くん。
佐倉くんらしい不器用さが垣間見えて、つい笑みがこぼれる。
「・・・日野とちゃんと話すの初めてだから、びっくりしただけ」
「そうだね」
私からすれば、何度も何度も話してきたんだけど。
もどかしい気持ちを隠しながら、私は言葉を続ける。
「でも今日の朝話してみて・・・なんか、もっと佐倉くんのこと知りたくなったの」
「えっ」
佐倉くんが動揺して足を止める。
私もつられて足を止める。
「だからさ、その・・・今日、帰り・・・。あの、どうせ坂田先生の話いっしょに聞くでしょ、だからね、あの・・・」
「・・・・」
「帰り、いっしょにどう、ですか・・・?」
あ、やばい。
天ヶ崎くんへの告白でずいぶんと慣れたつもりだったのに。
なんか、全然違う。
天ヶ崎くんはすっごく高嶺の花で、そんな彼だからこそ憧れている自分もいて・・・初めからどこか諦めていた。
でも佐倉くんは、私だけが知る、私だけに見せる表情を知ってしまったから。
期待と不安と緊張で、全身の血が沸騰しそう。
「・・・お、俺でよければ・・・」
おずおずと佐倉くんが口に出す。
その瞬間、今度は安堵と歓喜が身を包む。
こんなジェットコースターみたいなの、身が持たない。
私はいてもたってもいられないような気持ちのまま、歩き出す。
「佐倉くんて、お休みの日は何してるの?」
「うーん、漫画読んだり、ゲームしたり」
「そうなんだ、オススメの漫画とかない?夏休み中読めそうなのとか!」
「んー、ちょっと長いやつでもいいなら、例えば・・・」
下駄箱に向かうまでの、ほんの短い距離。
私は時間を惜しむようにゆっくりと歩いた。
上履きを履いて、またゆっくりと教室に戻る。
「見てみて佐倉くん、文化祭実行委員の募集ポスターだって」
私は掲示板の前で足を止める。
それにつられて佐倉くんも足を止める。
「へぇ、この学校の文化祭、結構盛大らしいしな。日野はこういうの興味あるのか?」
「うん!中学のときもやってたんだよ!」
「あ、なんかイメージ通りだ」
「そうなの?え、私ってどういうイメージ?」
隣に立つ佐倉くんを見上げると、佐倉くんも私を見ていたから、不意に目が合う。
「あっ」
佐倉くんはパッと私から目をそらす。
それでも耳がほんのり赤くなっているのが目に留まって。
それが愛おしくて、私はつい佐倉くんの顔をのぞき込む。
「ねぇねぇ、どういうイメージ?」
「・・・行動力ある、感じのイメージ・・・」
言いながら佐倉くんはさらに顔をそむける。
私は反対側から回って佐倉くんの顔をのぞきこむ。
「ほんと?」
「・・・ああ」
佐倉くんも負けじと反対側に顔をそらし、私の視線から逃れる。
その姿の、なんと微笑ましいことか。
「・・・ふふっ」
思わず笑ってしまった私。
つられたように、首をそむけていたはずの佐倉くんの肩も小さく震える。
「・・・・ふ、ふふ」
「あははっ」
思わず二人して笑ってしまった。
そして改めて、佐倉くんと目が合う。
「・・・なんか、こうして改まってみると照れるね」
「・・・そういうのを口に出すから照れるんだろ」
なんて話していたら、予鈴が鳴る。
「あっやばい!」
一時間目も遅刻し、二時間目も、なんてさすがに内申点に響きすぎる。
私たちは焦りながら、もう生徒もまばらな廊下をあわてて駆ける。
「おーい、お前ら早く席着けー」
数学の先生の声を背中に受けながら、二人して教室にすべりこむ。
お互い急いで席に着いた瞬間、本鈴が鳴った。
「起立、気を付けー」
日直の号令を聞きながら、佐倉くんが一瞬振り返る。
そして小さく私に微笑んだ。
そんな私たちを――――天ヶ崎くんが静かに見つめていたことに、私は気づかなかった。
「佐倉くん」
私の言葉で佐倉くんが驚いたように勢いよく振り返った。
教室を出た彼のあとを、私は追いかけてきたのだ。
「下駄箱行くんでしょ?私もいっしょに行ってもいい?」
私は上履きを履いていない自分の足元を指さす。
始業ギリギリのバスで来て、なんの変哲もなく交通規制に引っかかって、なんの変哲もなく坂田先生に捕まって、なんの変哲もなく靴下のまま一時間目を受けた。
坂田先生に捕まらないためのアレコレはしなかった。
だって、せっかく佐倉くんと話せるチャンスだもの。
「・・・いい、けど・・・」
佐倉くんは戸惑った様子でうなずく。
「・・・私がついてくるの、嫌だった?」
「いやっ!そんなことはなくて!」
焦って否定する佐倉くん。
佐倉くんらしい不器用さが垣間見えて、つい笑みがこぼれる。
「・・・日野とちゃんと話すの初めてだから、びっくりしただけ」
「そうだね」
私からすれば、何度も何度も話してきたんだけど。
もどかしい気持ちを隠しながら、私は言葉を続ける。
「でも今日の朝話してみて・・・なんか、もっと佐倉くんのこと知りたくなったの」
「えっ」
佐倉くんが動揺して足を止める。
私もつられて足を止める。
「だからさ、その・・・今日、帰り・・・。あの、どうせ坂田先生の話いっしょに聞くでしょ、だからね、あの・・・」
「・・・・」
「帰り、いっしょにどう、ですか・・・?」
あ、やばい。
天ヶ崎くんへの告白でずいぶんと慣れたつもりだったのに。
なんか、全然違う。
天ヶ崎くんはすっごく高嶺の花で、そんな彼だからこそ憧れている自分もいて・・・初めからどこか諦めていた。
でも佐倉くんは、私だけが知る、私だけに見せる表情を知ってしまったから。
期待と不安と緊張で、全身の血が沸騰しそう。
「・・・お、俺でよければ・・・」
おずおずと佐倉くんが口に出す。
その瞬間、今度は安堵と歓喜が身を包む。
こんなジェットコースターみたいなの、身が持たない。
私はいてもたってもいられないような気持ちのまま、歩き出す。
「佐倉くんて、お休みの日は何してるの?」
「うーん、漫画読んだり、ゲームしたり」
「そうなんだ、オススメの漫画とかない?夏休み中読めそうなのとか!」
「んー、ちょっと長いやつでもいいなら、例えば・・・」
下駄箱に向かうまでの、ほんの短い距離。
私は時間を惜しむようにゆっくりと歩いた。
上履きを履いて、またゆっくりと教室に戻る。
「見てみて佐倉くん、文化祭実行委員の募集ポスターだって」
私は掲示板の前で足を止める。
それにつられて佐倉くんも足を止める。
「へぇ、この学校の文化祭、結構盛大らしいしな。日野はこういうの興味あるのか?」
「うん!中学のときもやってたんだよ!」
「あ、なんかイメージ通りだ」
「そうなの?え、私ってどういうイメージ?」
隣に立つ佐倉くんを見上げると、佐倉くんも私を見ていたから、不意に目が合う。
「あっ」
佐倉くんはパッと私から目をそらす。
それでも耳がほんのり赤くなっているのが目に留まって。
それが愛おしくて、私はつい佐倉くんの顔をのぞき込む。
「ねぇねぇ、どういうイメージ?」
「・・・行動力ある、感じのイメージ・・・」
言いながら佐倉くんはさらに顔をそむける。
私は反対側から回って佐倉くんの顔をのぞきこむ。
「ほんと?」
「・・・ああ」
佐倉くんも負けじと反対側に顔をそらし、私の視線から逃れる。
その姿の、なんと微笑ましいことか。
「・・・ふふっ」
思わず笑ってしまった私。
つられたように、首をそむけていたはずの佐倉くんの肩も小さく震える。
「・・・・ふ、ふふ」
「あははっ」
思わず二人して笑ってしまった。
そして改めて、佐倉くんと目が合う。
「・・・なんか、こうして改まってみると照れるね」
「・・・そういうのを口に出すから照れるんだろ」
なんて話していたら、予鈴が鳴る。
「あっやばい!」
一時間目も遅刻し、二時間目も、なんてさすがに内申点に響きすぎる。
私たちは焦りながら、もう生徒もまばらな廊下をあわてて駆ける。
「おーい、お前ら早く席着けー」
数学の先生の声を背中に受けながら、二人して教室にすべりこむ。
お互い急いで席に着いた瞬間、本鈴が鳴った。
「起立、気を付けー」
日直の号令を聞きながら、佐倉くんが一瞬振り返る。
そして小さく私に微笑んだ。
そんな私たちを――――天ヶ崎くんが静かに見つめていたことに、私は気づかなかった。


