7月15日、あなたに告白します。

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「あがったよー」

「はーい、水いる?」

「いる」


 お母さんは私に水を汲んで手渡してくれた。
 普段から私のお母さんは優しいほうなんだけど、今日は一段と優しい。っていうか甲斐甲斐しい。


「はい、特別にアイスもつけちゃう」

「ふふ・・・ありがとう」


 私はリビングのソファに座ってアイスを頬張る。


「・・・・ねぇお母さん」

「ん?」


 私は少しためらいつつ、お母さんのほうを見る。


「あのさ・・・・お父さんと、どういう風に付き合ったの?」

「えぇ?何よ急に・・・」


 別にうちの親はラブラブ夫婦ってわけじゃないけど、お互いのことをきちんと尊敬しあって、程よい距離感で愛し合っているんだろうなって、肌で感じる。
 お母さんは少し困ったようにしていたけど、しぶしぶ馴れ初めを聞かせてくれた。


「私の一目ぼれ。もう、昔のお父さん、本当にかっこよかったんだから」

「え!?一目ぼれ!?」

「そうよ。お父さんそのときカフェでバイトしてたの、私が友達とね、少し遠出してご飯でも行こうってことで行ったカフェで、初めて会ったのよ。私はそのとき大学生だったから、お金に余裕があったわけじゃなくてね、そのカフェまでの交通費もカフェでのご飯代も軽い出費じゃなったんだけど、私はその日以来毎週そのカフェに通ってたわけ」

「へぇぇ・・・」


 まさか自分の両親がそんなメルヘンチックな恋愛しているとは。


「最初はね、お父さん全然なびいてくれなかったんだけど、たくさんたくさんアタックして、ようやく付き合ってもらえたんだから」

「たくさん・・・」


 なんだかその話を聞くと、うちのお母さんが歴戦の古豪のようにすら思える。
 片思いの相手にたくさんアタックして、付き合って、そして最終的に結婚しているわけだから、もうそれは私の大先輩といっても差し支えない。


「アタックって、何したの?」

「ほんともういろいろよ。ある日は清楚系で攻めて、ある日は元気系で攻めて・・・」


 思考回路が私と同じすぎる。
 お母さんの回答にずっこけそうになった。


「告白してOKをもらえた日はギャル系だったのね、だからてっきりそういうのがタイプなのかと思って、付き合ってしばらくはギャルやってたのよ」

「ギャル!?お母さんが!?」

「そうよ。でもしばらくして、別にギャルが好きだったわけじゃなくて、毎日手を変え品を変えとにかく自分を落とそうって一生懸命なところに惚れたんだよって言われたの。別にギャルが好きってわけじゃなかったみたい」

「はぇぇ・・・・」


 両親はずいぶん少女漫画な恋をしてきたようだ。
 にしてもそうか・・・やっぱり好きっていう姿勢をしっかり見せれば、落ちてくれる可能性もあるってことだ。

 でも両親の話を聞く限り、やっぱりそれには長い時間が必要で。

 私には到底使いようのない手段だった。


「でも本当に、付き合えた日は心から嬉しくて」


 当時を思い出すように目を細めつつ、お母さんは嬉しそうに話す。
 私も、両想いではなかったけれど、天ヶ崎くんと付き合えた時はうれしかった。


(・・・ん?いやうれしかったっていうか・・・驚きのほうが大きかったか)


 絶対に無理だと思っていたから、もううれしさとかそういう感情を置き去りにして、驚きだけが駆け抜けていった。


「その日の夜は、付き合うまでのこととか、これからいつ会えるかとか、そんなことばかり考えて眠れなかったわねぇ」


 私も昨夜は眠れなかった。
 天ヶ崎くんと付き合えたうれしさで、わくわくが止まらなかった。


(昨日の夜は私も・・・)


 そう思った瞬間、はたと止まる。

 昨日の夜、私、何を考えていた?


(7月15日が終わること、7月16日がやってくること、ただそれがうれしくて・・・・涙が出るほどうれしくて・・・)


 じゃあ、天ヶ崎くんと付き合えたことは?


(あれ?あれ・・・?)


 いつからだっただろう。
 天ヶ崎くんに振られても、あまりショックを受けなくなったのは。

 いつからだっただろう。
 天ヶ崎くんに振られることより、また7月15日が来ることのほうが恐ろしくなったのは。

 考えれば考えるほど、目の前が真っ暗になりそうだった。


(・・・・わたしって・・・天ヶ崎くんのこと、好き、なんだよね・・・?)


 お風呂上がりで暑かったはずなのに、私の頬を、冷たい汗がつたった。