7月15日、あなたに告白します。

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 五時間目の終了のチャイムが鳴り終わるとすぐに、私は教室に入った。


「永!大丈夫なの?」


 深友が駆け寄ってきて声をかけてくれた。
 私は早退することだけを手短に伝え、荷物をまとめる。


(・・・あー、早く帰りたい)


 私と仲のいい何人かは心配して声をかけてくれたけど、それ以外は特に変わりなく。
 またうんざりするような同じことが教室中で繰り返されていて、それを見ると吐きそうなほど気持ちが悪かった。


(・・・教室にいると、ループしてるってことがまざまざと見せつけられてるみたいで、ほんっと嫌になる・・・)


 なるべく嫌な気持ちが顔に出ないよう努めながら荷物をまとめ終わり、教室を出ようとしたところで声をかけられた。


「日野、大丈夫か?一人で帰れるか?」


 佐倉くんと、その後ろに天ヶ崎くんの姿もあった。


「・・・大丈夫だよ。子供じゃあるまいし」

「大人でも子供でも体調悪いときは辛いもんだろ」

「・・・それはそうだけど」


 私はとっとと教室を出たくて、ついそっけなく答えてしまう。


「もし帰りに何かあったら連絡してくれたら俺が―――――」

「日野さん」


 佐倉くんの話を遮るように、天ヶ崎くんが私に近づいてきた。


「気を付けて帰ってね。あと一つだけ、放課後の話どうする?」

「・・・ああ」


 そうだ、告白。
 完全に忘れて帰ろうとしていた。

 でも今日はもうよさげなタイミングがないし・・・。
 今日はなしにするのがよさそうだ。

 なんて思ったのもつかの間、私の頭に別の考えがよぎる。


(・・・・・よく考えると別に今してもよくない?)


 どうせ明日にはリセットされるしな、なんて思いが頭をかすめた。
 絶対に普通の私ならこんなことしないけど、今の私は普通じゃなかった。

 明日になれば全部なかったことになる。
 変わり映えのない、変わり映えのなさすぎる今日に、飽き飽きしていた。

 私はその自棄みたいな心のまま、粗雑な気持ちで口を開いた。


「・・・放課後ね、あれね、告白しようとしてたの」

「・・・え」


 天ヶ崎くんがぽかんとした表情になる。
 もしかしたら、告白かもっていう予想はついていたのかもしれないけれど、まさかみんながいる教室で突然告白してくるなんて予想はつかないだろう。


「天ヶ崎くんのこと前から好きだったからさ。まあ無理だと思うけど付き合ってください」


 投げやりにそう言った。
 さっきまで騒がしかった教室が、突然水を打ったように静かになった。

 少し先で、深友があわあわと口を動かしているのが目に入った。

 天ヶ崎くんはしばらくあっけにとられていたけど、一瞬ためらうように口を結んだ。


「・・・って、ここじゃ断ろうにも断れないか。返事は今日中に連絡してくれればいいから。それじゃ」


 まあたぶん『今は誰とも付き合う気がなくて』ってメッセージが来るんだろう。
 それとも、文字でのやりとりだと断り方もきちんと吟味したうえで送られてくるから、案外もっとやんわりと断られたりして。

 そんなことを思いつつ、天ヶ崎くんに背を向けて教室の扉に手をかけた。

 しかしその瞬間、反対側の手をつかまれた。


「・・・待って」

「?」

「・・・あの、僕、断るとかそういう気は・・・」


 少し言いにくそうに天ヶ崎くんが話し出す。
 話が読めず、戸惑っていると、意を決したように天ヶ崎くんが話し出した。


「・・・日野さんの告白、断るつもりないよ」

「・・・ん・・・?というと・・・?」

「付き合おう」


 照れているのか、気をつかっているのか、少し視線を外しつつ、天ヶ崎くんはそう言った。


「・・・へ?つ、つき・・・?」

「付き合おう。恋人になろう」

「こいび・・・?」


 どうせ断られるとばかり思っていたから、付き合おうと言われた時の対応を何一つ考えていなかった。

 というか今回の私の何がよかったんだ・・・?
 今回の私、自暴自棄になって突拍子もない行動しかしてないぞ?

 それとも天ヶ崎くんはそういう趣味?
 普通の女はつまらない、おもしれー女じゃないと、みたいな?
 確かに今回の私は面白さ、もとい異常さで言えば天元突破してたかもしれないけど・・・。

 疑問符しか浮かばない私だったけど、教室が突然騒がしくなったことで現実に戻ってきた。
 男子はヒューヒューとはやし立て、女子は絶望の悲鳴をあげていた。


「日野さ・・・じゃなくて永。永はこれからバス停向かう?」

「は、はるっ!?はいっバス停行きますっ・・・!」

「じゃあ5分くらいだけど、授業までの時間で途中まで送ってくよ」


 天ヶ崎くんは私の荷物をひょいっともちあげた。


「行こう」


 そう言って、私の手を引いて教室を出る。


「え、あ、え・・・あぇ・・・?」


 状況が呑み込めずにいる私を見て、少し前を歩く天ヶ崎くんがくすっと笑う。


「ふふっ、何それ、なんでそんな戸惑ってるの?」

「だ、だって、だって・・・ま、まさかほんとに付き合うことになる、とか、そんなの・・・」

「えぇ?何それ、自分から告白したのに?」

「だ、ダメもとだったから・・・」


 私の答えを聞いて、また天ヶ崎くんがくすくす笑う。


「じゃあラッキーだったね。僕も、永に告白してもらえてラッキーだ」

「・・・そ、そうですね・・・」


 天ヶ崎くんはこれを天然でやってるのだろうか。
 だとしたら天性の女たらしだ。


「・・・あの、けどほんとに・・・私、なんで天ヶ崎くんが付き合ってくれたかわからなくて。一体私のどこがよかったわけ・・・?」


 なんか自分の好きなところを聞くなんて若干めんどくさそうな彼女ムーブをしてしまったけど、本当にこれは純粋に疑問でしかない。
 これまで、見事に十三回振られてきた。
 一体今回のどこが決め手だったんだろうか。


「どこがって、そうだなぁ・・・たとえば、永って周りをよく見てるでしょ?」

「そう・・・なのかな・・・?」


 自分ではいまいち思い当たらない。


「そうだよ。移動教室で電気消し忘れてるとき、大体永が電気消してる」

「・・・見てたの?」

「うん。あと班で代表者出してって言われると、だいたいみんなやりたがらないから永が絶対やってるよね」

「・・・そんなの天ヶ崎くんもじゃん」

「だからこそだよ。僕も周りを見ようって心掛けてるからこそ、同じように周りを見てる永のこと、尊敬するし共感もする」


 天ヶ崎くんは本当に周りをよく見ている。
 私が電気を消してるだの、班の代表者をよく引き受けているだのって、かなり意識して見ていないと気づかないのに。


「あとは真剣に物事に取り組めるところ」

「・・・真剣に・・・」


 そんな褒めてもらうほど真剣に何かに取り組んでいる姿を見てもらっていただろうか。


「部活のときいつも技術室棟で練習してるでしょ?」

「えっ・・・なんで知ってるの?」

「サッカー部、その下の第二グラウンドで練習してるから」

「え!?じゃ、じゃあ・・・全部聞かれてるってこと!?」

「うん。いっつもさ、何回も何回も同じフレーズばっかり繰り返して練習するでしょ?短いフレーズでも納得いくまで飽きるほど繰り返してて。素人目からしたら、もう十分吹けてるよって思っても、自分で納得いくまで何度も」


 今までの練習が全部聞かれていたのかと思うと、正直恥ずかしい。
 音域がものすごく高い曲が配られたばっかりのときかっすかすな音で練習していたことだとか、妙に練習に乗り気に慣れない日にふざけて教育番組のテーマソング吹いてたことだとか、そういうのがよみがえってくる。


「僕も今の部活に何も不満がないわけじゃないけど・・・それ聞いてたらさ、僕もがんばろうって思えるんだよね」

「・・・そっか・・・」


 私は天ヶ崎くんのほうを向いて、笑って見せた。


「私も、天ヶ崎くんのこと大好き!付き合ってくれてありがとう!」

「うん」

「ここまででいいよ。もうすぐバス停だから」


 天ヶ崎くんが腕時計を確認し、うなずいた。


「・・・バス停まで送りたかったけど、このままだと授業に間に合わないから戻るね」

「気にしないで。十分だよ」


 別れの挨拶を交わし、天ヶ崎くんとは手を振って別れた。
 数メートル歩いてから、天ヶ崎くんの背中を振り返る。

 天ヶ崎くんは私のほうを振り返ることなく、授業に遅刻しないよう足早に学校に戻っていく。


(・・・きっと、嘘だなぁ・・・)


 天ヶ崎くんが私のことをあんなに見ていてくれたなんて知らなかったけど・・・。

 でもやっぱり、天ヶ崎くんが言った、私の好きなところは嘘だと思う。
 人間的にはもちろん好いていてくれているのかもしれないが・・・恋愛的な好きではない気がする。

 私の周りを見ているところだの、真剣に部活に向き合っているところだのが好きなら、きっと何周目でも告白をうけてくれるだろうから。

 付き合ってくれたのは、今日一日人生に絶望したような様子の私を見て、同情したからだろうか。
 それとも、教室で公開告白してきた子を振るのは罪悪感があったからだろうか。

 どちらにせよ、きっと理想的な両想いのカップルにはなれていないんだろう。


(・・・でもいい、それでもいい)


 なんだっていいんだ。
 これで・・・すべてが終わるから。