7月15日、あなたに告白します。

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 保健室には誰もいなかった。
 ただ静かなベッドの上で、私は眠るでもなく天井を見つめていた。


(・・・あとだいたい14時間で今日が終わる)


 そしてそうすればまた7月15日がやってくる。そしてまた24時間たてば7月15日が・・・。

 そんな終わりのない思考を延々と続けている内に、一時間目の終了を告げるチャイムが鳴った。


(・・・ってことはあとだいたい13時間で今日が――――ー)


 意味もないカウントダウンは、扉の音で遮られた。


「・・・日野、体調大丈夫か?」


 ここ数日で、すごく聞きなれた声・・・佐倉くんだ。
 私は体を起こして佐倉くんを見上げた。


「・・・佐倉くん・・・?なんでここに・・・」

「朝から様子変で気になってたから、様子見に来た」

「・・・そっか」

「熱ははかったか?確か体温計がこの辺に・・・」


 そう言いながら体温計を探し始める佐倉くん。
 いつかの7月15日も、こうやって保健室で、ちょうどこの時間、佐倉くんに手当てをしてもらった記憶がよみがえる。


「・・・あのときは・・・まさかこんなことになるとはなぁ・・・」


 思わず自嘲気味に笑ってしまった。
 永遠に7月15日に閉じ込められる、なんてこと思ってもいなかった。

 繰り返していさえいれば変わるんだと、どうにかなるんだと、本気で信じていた。愚かにも。


「あのとき、って?」


 体温計を見つけ出し、佐倉くんが手渡してきた。


「・・・なんでもない、体温計もいらない。熱はないから」

「そうか」


 佐倉くんはせっかく探してきた体温計を断られても、顔色一つ変えずまた戻しに行く。


「・・・ねぇ佐倉くん」

「ん?」

「・・・もしも・・・もしも、だよ。もしも今日から先の人生がなくなるってなったら佐倉くんはどうする?」


 もし・・・私以外の人なら、この抜け出せない7月15日を、どんな風に過ごすんだろう。なにを生きがいに過ごすんだろう。
 そう思って、口をついて出た質問だった。

 佐倉くんは不思議そうにしつつ、しばらく考えて口を開く。


「・・・そうなってみないとわからない・・・けど、たぶん後悔したくない・・・から・・・」


 珍しく、少し歯切れ悪く話す佐倉くん。
 そしてちらりと私を見た。


「・・・好きな人に告白する」

「・・・そう」


 もう私がこれでもかってくらい、もう嫌ってくらい繰り返していることだった。
 私の生きがいのヒントにはなりそうもなかった。


「・・・それ、日野がそうなの?」

「・・・そうっていうのは?」

「だから・・・今日から先の人生がなくなるってやつ」

「・・・なわけないじゃん。もしもって言ったじゃん、たとえ話だよ。・・・私にはちゃんと明日も明後日もあるから」


 そう、明日も、明後日も、その次も。
 変わらない7月15日がある。


「・・・死んじゃダメだからな」

「・・・・」

「何があったのかは知らないけど・・・戦わなくていいし逃げてもいい。でも死ぬのはだめだ」

「死なないってば」


 死んでもたぶん、明日になればまたリセットだ。


「朝も言ったじゃん。ほんと、佐倉くんて冗談通じないよね」

「・・・・」


 佐倉くんが目を伏せた。
 そして何かを言おうとしたけど、言うべき言葉が見つからないのか、口を閉ざす。

 まもなく、二時間目の予鈴のチャイムが鳴り響く。


「・・・次の授業の間も、来るから」

「・・・なにそれ。暇なの?」

「暇だ。暇だから来る」

「・・・そう」


 佐倉くんは心配そうな視線を私に向けたけれど、結局何も言わず保健室を出て行った。