7月15日、あなたに告白します。

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「—————野、日野」

「・・・ん」

「日野、起きて」


 佐倉くんの声で目が覚めた。

 私は佐倉くんにもたれかかったまま、眠っていた。


「あっ、ご、ごめん・・・!」

「大丈夫」


 私は急いで佐倉くんから離れた。


「見て、ほたる」

「!」


 川べりを、無数のほたるが飛んでいた。


「・・・すごい、ここの土手、こんなの見れたんだ・・・」

「だな、俺も始めて知った」


 ぼんやりほたるを眺める。
 ずいぶん頭が働かない———どうやらかなりの間寝ていたみたい。


「今何時・・・?」

「今?今は・・・21時すぎ」

「・・・すっごい、もう夜じゃん」

「だな」


 私は買ってきていたジュースを一口、飲み込む。


「悪い子だねぇ・・・私たち・・・」

「そうだな。まあでも明日になれば悪いことしたのもリセットだ」

「あはは、確かに・・・そう思えばループもデメリットばっかじゃない、のかな」

「かもな」


 佐倉くんはしばらくそこから何かを考え込むように空を見上げた。


「・・・なあ」

「ん?」

「なんで清翔?」


 なんで・・・という質問の意図がよくわからず、私は首を傾げる。


「なんで清翔のこと、好きになったんだ?」

「・・・んー・・・」


 なんで、か。
 優しいところも、気が遣えるところも、何事にも真剣なところも、芯があるところも。

 全部全部好きだけど、それはきっかけじゃない。

 きっかけは————。


「・・・私がね、保育園のときのことなんだけど」

「うん」

「この近所でさ、毎年桜まつりがやってるでしょ?」


 毎年、4月になると行われる地域のお祭り。
 川べりに桜が立ち並んで、その下にたくさんの屋台が出る。


「私もおおはしゃぎで参加してたんだけど・・・はしゃぎすぎて親とはぐれちゃって」


 あのときは焦った。
 早くお父さんとお母さんに合流しなきゃって思うけど、保育園児の背丈では周りの人の顔すらよく見えなくて。


「何人か優しい大人の人が声をかけてくれたりもしたんだけどね、そのときの私は幼すぎて、怖がって逃げちゃったりして」


 佐倉くんは何も言わずただ私の話に聞きいっていた。


「それで、屋台から離れたところにある大きな桜の木の下で、泣いてたのね」


 大きな大きな桜の木。
 今でも春になると、たくさん花を咲かせる桜の木。

 あの木を見るたび、私はあの桜まつりを思い出す。


「そしたらね、同い年くらいの男の子が声をかけてきて。『大丈夫?』って。『迷子なの?助けてあげようか?』って」


 私の不安を、全部包んでくれるような優しい声だった。


「泣きながらうなずいたら『僕も迷子』とか言うの。自分も迷子になってるのに迷子を助けようとするなんて、ちょっと抜けてるよね」


 けど、優しい。
 その優しさに、救われた。


「その子はね、私を安心させるためにいろんな話をしてくれたの」


 桜まつりでのこと、保育園の思い出、妹のこと。
 そして、もうすぐ引っ越すってこと。


「まだ出会ったばかりだったけど、私にとっては白馬の王子様だったの。私のピンチを救ってくれて、私の不安を消してくれた王子様。だからもう二度と会えないかもって思うと、辛かったんだ」


 今思えば、あれは私の初恋だった。
 淡くて綺麗な桜色の初恋だった。


「もう会えないんだって泣く私に、その子は言ってくれたんだ、『絶対戻ってくるよ』って。何年後になるかわからないけど、きっとこの町に帰ってくるよって言ってくれたの」


 まだ年端もいかないこどもの、ささいな約束。
 普通叶うわけない。

 でも私にとっては、初恋の相手とした忘れられない思い出の約束。
 小学生になっても、中学生になっても心の中で温め続けてきた。


「中学くらいになってから、友達には、さすがにもう忘れられてるよって言われるようになったんだけど・・・私は諦め切れなくて。そんなときに高校で会ったのが、天ヶ崎くんだったの」


 約束の男の子かも、って思い始めたのはいつのことだろう。

 確か、彼の笑顔を見たとき・・・ふとあの男の子に似てるって思ったことが始まりだったかもしれない。


「天ヶ崎くんの優しくて明るくて話し上手なところ、本当にあのときあった約束の男の子そのままで。もしかしたらって、入学してからずっと思ってた」


 確信を得たのは、つい先週のこと。


「先週・・・私からすればもう三週間くらい前だけど。天ヶ崎くんが、クラスの子と話してるのを聞いたんだ。天ヶ崎くんて、中三のときこっちに引っ越してきたんでしょ?」

「ああ」


 佐倉くんは天ヶ崎くんと同じ中学だから、知っていたようだ。


「それでね、天ヶ崎くんにそのこと聞いたら、小さいときはこっちにいて、しばらく親の仕事の都合で東京にいたけど、戻ってきたんだって言ってたの」


 昔こっちにいて、最近戻ってきた。
 それを聞いて、私の胸は高鳴った。

 天ヶ崎くんが約束の男の子なんだ、って。


「そう思ったときから、私は天ヶ崎くんと付き合いたいって思うようになったの。あのとき散っちゃった初恋、今度こそ叶えたい!って思ってさ」

「・・・・」

「まあ今んとこ、振られっぱなしだけどね」


 一通り話し終わって、私は佐倉くんを見る。
 佐倉くんも、私を見返した。


「じゃあ・・・清翔は日野の、運命の人、ってわけだ」

「運命の人・・・なのかなぁ、だとしたら、なかなか振り向いてくれない運命の人で困っちゃうな」

「・・・大丈夫、清翔はきっといつか振り向く。だって俺からみても、二人はお似合いだから」

「ほんと?」

「ああ、本当だ」


 佐倉くんが笑う。
 どことなく、切なそうな笑い方だった。


「だからきっと大丈夫。日野ならきっと、ループを抜け出せる」


 不思議。
 ずっと不安でいっぱいだけど、佐倉くんにそう言われると、やっぱり少しだけ安心できる。

 佐倉くんて、私を安心させる天才かもしれない。



「・・・うん、佐倉くんがそういうなら、そうかもしれない」

「絶対そうだ。そんで・・・ループが終わったらさ」


 少しだけ、言葉を止めた。
 夜の静けさが、私達を包む。


「・・・・話がある」

「話?」

「そう。7月16日に、伝えるよ」

「・・・わかった」


 約束をした。

 7月16日の約束を。
 いつ来るかも、本当に叶うのかもわからない約束を。


「日野、ループから出たら、何がしたい?」

「えー・・・そうだなぁ、まずはカレー以外のお母さんの手料理を久しぶりに食べるでしょ、それと夏休みの計画を立てるでしょ、それに深友と遊びに————」


 私達は静かな星空の下、ずっとずっと話し続けた。