7月15日、あなたに告白します。

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 土手に落ちないよう細心の注意を払って、私は踏切にたどり着いた。


「おはよう天ヶ崎くん」

「おはよう、日野さん」


 今日もヘアアレンジをしようと思っていたのだけれど、6時12分ぎりぎりまで寝てしまったのでできなかった。

 さて、まだ朝早いけれど、さっそく調査活動始めるとするか。
 調査内容は当然、天ヶ崎くんの悩み。


「・・・ね、天ヶ崎くん」

「ん?」

「私今、悩みがあってさ・・・、聞いてもらってもいい?」

「悩み?僕でいいならもちろん聞くけど・・・」


 こういうのって、相手も悩みを相談してくれたほうが、自分の悩みも相談しやすい気がする。
 そう思って、私はこんな感じで切り出したんだけど・・・悩み、何にしよう。


「・・・・ぶ、部活のことで」

「うん」

「えっとー・・・あ、私吹奏楽部なんだけどさ、結構体育会系?っていうか、そんな感じで。なんか思ってたよりかなり厳しいから辞めようか悩んでて・・・」


 うちの吹奏楽部が体育会系で厳しめなのは事実だ。
 それを理由に辞めた子もいる。
 私は今のところ辞める気はないんだけど。


「うーん、なるほどね・・・、それは悩むよね」


 天ヶ崎くんが少し考え込む。
 こんなに真剣に私の相談に向き合ってくれるなんて・・・。

 嘘をついたのがむしろ居たたまれなくなってくる。


「演奏すること自体は?楽しい?」

「うん、すっごく」

「そっかー・・・どういうところが楽しい?」

「どういうところ・・・やっぱ合奏中かなぁ。なんか一人で練習してるときより、合奏中って一生懸命になれるっていうか・・・これ以上息はけないってくらいはいて、頭空っぽになるんだよね。その瞬間が、すっごい好き」


 思わず素のまま答えてしまったけれど、天ヶ崎くんは、そっか、と優しく笑った。


「じゃあやっぱりやめないほうがいいと思う。今話してる日野さんの顔、すごく生き生きしてたよ」

「!」

「そうやって真剣に打ち込めること、手放さないほうがいいと思う」


 私は思わず天ヶ崎くんの言葉に、表情に、感動してしまった。
 なんて素敵な言葉をくれる人なんだろうって。
 さすが天ヶ崎くん、って思った。


「・・・そうだよね、ありがと、なんか話聞いてもらえてすっきりした」

「それはよかった」

「天ヶ崎くんは・・・・何か悩みある?私も相談乗ってもらったし、悩みあるなら力になりたいな。些細なことでもいいの、学校のことでも、家のことでも・・・部活のことでも」


 私は期待を込めて天ヶ崎くんを見つめた。
 天ヶ崎くんは少し考えた末、口を開いた。


「うーん・・・・あ、本当に些細なことなんだけど・・・」

「うん!なんでも言って・・!」

「うちの家で新しいハムスター飼い始めたんだけど、名前迷ってるんだよね」

「・・・・うん」


 めちゃくちゃ可愛いお悩みだ・・・・。
 けどそこまで深い悩みでは絶対にない。

 たぶん深い悩みを相談するほど、私のこと親しく思えてないんだろうな・・・・。

 そう思って若干落ち込んだけど、もともとそうだろうとは思っていたし。
 気を取り直して話を続ける。


「うーん、どんな柄?」

「全体的に白くて、おでこのあたりだけ灰色。すごい可愛いんだよね・・・」


 そう話す天ヶ崎くんは、いつもよりふにゃっとした笑い方をしていて。
 あなたのほうがかわいいですよ、天ヶ崎くん。


「名前の候補は出てる?」

「いくつか考えてるよ、もち太、福、ぷく、まる・・・」

「あははっ、なにそれ可愛いっ」

「でしょ?」


 ハムスターの話をする天ヶ崎くんが生き生きしている。
 これからも毎周この話題を振ってもいいかも、なんて思った。


「私ならもち太にする」

「もち太に一票?」

「ふふっ、じゃあもち太に清き一票入れよっかなぁ。今の投票状況はどう?」

「家族で話して、福が二票、まるが一票、もち太が一票。日野さんの入れて、福ともち太が並んだね。ちなみに俺は福に入れたよ」

「うわぁ、敵じゃん!」

「あはは、そう、敵だよ敵」


 思わず顔を見合わせて笑った。
 つい楽しくなってまた素で話してた。

 けどすごく楽しくしゃべれたから、結果オーライ。


「あ、電車来た」


 気づけばまだ告白の約束も取り付けていないのに電車が迫ってきている。
 慌てて私は口を開いた。


「ね、ねぇっ!今日の放課後話あるんだけどいいっ?」

「放課後?うん、放課後は空いてるよ」

「なら・・・話がある」


 天ヶ崎くんが、うなずいた。
 その瞬間、電車が通り過ぎていく。

 そして踏切がゆっくりと開いた。


「じゃあまた教室で」