7月15日、あなたに告白します。

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 一時間目の古文の時間が終わり、私はちらっと天ヶ崎くんのほうを見た。


(・・・今日、どうしようかなぁ・・・)


 結局踏切で会えなかった。
 今からアタックしてもいいけど、正直うまく行く気がしない。

 今日ももういっそ告白なしにするか。
 いやでもそんなこと言ってたら永遠に終わらないし。
 けど今日は腕も足も擦り切れてるし、制服汚いしで、コンディション最悪。
 いやだけど・・・。


「どうしよー・・・」


 私は悶々としながら突っ伏した。


「何が、どうしよ、なんだ?」

「へっ?」


 上から降ってきた声に、私は驚いて顔を上げた。
 私の席の前に、佐倉くんが立っていた。


「え、な・・・え・・・?」


 佐倉くんとは教室ではほぼ話したことがない。
 あっても、班活動みたいな授業中の必要な会話だけ。

 急に話しかけてきた佐倉くんに、私は戸惑いを隠せなかった。


「ケガ、大丈夫か?」

「えっ、あ、うん・・・」

「一応保健室行っておくか」

「えっ、いや大丈夫だよ・・・?」


 やんわりと断ろうとしたけど、佐倉くんは、ついて来い、って感じですでに歩き出していて。
 無視するわけにもいかず、私は後ろをついていく。


「・・・・あの、今朝はありがと・・・わざわざ助けに来てくれて」

「大丈夫。むしろこっちこそありがとう」


 何に対するお礼かわからず不思議そうにする私に、佐倉くんが言葉を付け足す。


「日野がいなかったら確実に遅刻で坂田先生に捕まってたから」

「あー、なるほど」


 確かにそれはお返しのつもりでやったんだった。


「ほんと、坂田先生に捕まんなくてよかったね」

「ああ。あの人俺の部活の顧問だから部員には説教長いんだよな・・・」

「えっ、じゃああの時の説教って私もついでに長く説教されて―――――」

「あの時?」


 あ、またついぽろっと・・・。

 坂田先生の説教タイムはかなり面倒って噂は聞いていたけど、それにしても妙に長いなぁとは思ったんだ。
 あれは佐倉くんのついでに長説教されたわけか・・・。 

 私はごまかすために話題を変えた。


「えーっと・・・にしても坂田先生って剣道部の顧問だったんだ、初めて知った」


 私のセリフに、佐倉くんが少しだけ驚いた様子になる。


「・・・俺が剣道部って、知ってたんだ」

「うん」


 本当は五周目の佐倉くんに聞いたんだけれど。

 やっぱり、あの日交わした会話も、あの日過ごした時間も、佐倉くんはきれいさっぱり忘れているわけだ。
 そう思うとなんだか・・・少し、寂しい気がした。

 雑談しながら歩いていると、保健室が見えてくる。


「失礼します・・・って、先生はいないみたいだね」

「ああ」


 佐倉くんは手慣れた感じで保健室の戸棚をあさり、応急処置セットをもってくる。


「座って」


 そして私の擦り傷も手慣れた感じで消毒し、目立つあたりにだけ何か所かガーゼを張ってくれた。


「・・・手慣れてるね」

「部活柄、結構怪我するやつ多いから」


 腕の消毒を終え、今度は足に取り掛かる佐倉くん。


「・・・なあ、ひとつ聞いてもいいか?」

「いいよ、何?」

「・・・・・」


 聞いてもいいか、と言ってきたわりに、なかなか話し出さない。
 佐倉くんはしばらくためらうように話し出さなかったが、意を決したように口を開く。


「・・・通行止めのこと、いつ知ったんだ?」

「え?えーっと・・・」


 朝は、友達がラインで教えてくれた、って言い訳した気がする。
 なら辻褄を合わせなきゃ。


「朝言った通りだよ?友達が、連絡入れててくれたから、それで・・・」

「・・・バス降りてすぐ、通行止めのこと教えてくれただろ。そんで見た感じバスではスマホ触ってなかったし」


 よく見てるな・・・佐倉くん・・・。


「バス乗るより前にラインしてくれてたってこと?」

「・・・うん」


 これはもう、肯定するしかない。
 ここで否定したら辻褄が合わなさすぎる。


「・・・これ、さっき見たんだけど」


 佐倉くんが何かを表示したスマホを見せてきた。
 のぞき込むと・・・ニュースサイト?


「それ、地方ニュースサイト。ついさっきの事故の情報も載ってた。時間見て」


 事故発生時刻8時2分、と書かれた文字が目に飛び込んできた。


(バス乗った直後に事故ってるぅぅぅ・・・!!まじかぁぁぁ・・!!)


 私は自分の詰めが甘すぎて頭を抱えた。

 いやこの場合佐倉くんの詰めがすごすぎるだけな気もする。
 悪い大人に騙されそうとか無用な心配だった。 

 普通、友達の言ってることがなんか変だなーって思ったとしてもここまで調べないだろう。
 しかも私にさり気なく誘導尋問しかけて。


「・・・ごめん、ちょっと意地の悪いやり方して」


 佐倉くんが申し訳なさそうにそう言った。


「ほんとは言いたくなさそうだったから聞かないでおこうかとも思ったんだけど・・・今日の日野、疲れてるみたいに見えたから・・・ちょっと強引だったけど、話、聞きたくて」

「!」


 驚いて、思わず聞き返す。


「私・・・疲れてるみたいに見えた・・・?」


 親にも、深友にも、気づかれなかったのに。

 疲れてること、心が折れそうなこと、バレないよう、悟られないよう・・・隠してたのに。
 心配かけたくないし、誰にも相談できるような内容じゃないし。
 そう思って、隠してたのに。


「いつもより、笑顔固いし、声のトーン低めな・・・気がする。気のせいだったらごめんだけど」


 佐倉くんの瞳が、私を心配そうに見つめる。

 ただでさえ今日はいっぱい迷惑をかけたんだ。
 これ以上心配かけちゃだめだ。

 大丈夫だよって。
 気にしないでって・・・言わなきゃいけないのに。


「もちろん俺はそこまで親しくないし、無理に話せとは言わない」


 普段は不愛想で、ぶっきらぼうで。
 教室にいる佐倉くんは、何を考えているのかよくわからない。

 でもこうやってすぐ近くで彼の言葉を聞いていると、なんだか少し、分かった気がする。

 感情を表に出すのが苦手なだけで、彼自身は思いやりと優しさにあふれているんだ。
 それで今この瞬間もそう。

 私に精いっぱいの優しさが伝わるよう、不器用な笑みを浮かべてくれている。


「けど一人で抱え込むのは―――――ってど、え!?」

「え、あ・・・あれ?・・・わたし・・・」


 私の目から、無意識に涙がこぼれていた。


「だ、大丈・・・え、あ・・・お、俺は・・・ど、どうすれば・・・?」


 見たこともないほど佐倉くんがうろたえていた。

 普段は無表情っぷりとは違いすぎて、なんだか泣いてるのに笑えてくる。


「ふふっ・・・あはは、あせっ・・・あせりすぎ・・・あははっ」


 泣き笑いみたいな私を見て、佐倉くんは言葉を失う。
 最初は驚いたみたいな顔をしてたけど、だんだん目を細めてこれでもかってくらい優しく微笑んだ。


「・・・話すの、俺じゃなくてもいいから。けど一人で抱え込むのはやめたほうがいい。そんでもし俺に話してみようかなって思うなら・・・」


 佐倉くんの瞳が、まっすぐ私をとらえた。


「できるだけ一生懸命聞く」


 一生懸命聞く・・・。


「ふ、ふふっ・・・あははっ・・・」

「・・・今の笑うところか?」

「だって・・・めっちゃ真剣な顔して言い方が小学生みたいなんだもん・・・っ」

「・・・そうか?」


 私が笑っている理由がいまいち納得できないのか、無表情だけどどこか不満そうな表情の佐倉くん。

 そこで、二時間目の予鈴が鳴った。


「・・・授業始まるし、行くか」

「待って」


 私は無意識に、佐倉くんを呼び止めていた。

 彼になら・・・話してもいいかもしれない。
 いや、話してみたい。

 私はありったけの勇気をかき集めてきて、口に出した。


「次の授業のあと・・・話、聞いてほしい」