私は邸に居た。
あの後、呆然とする私を殿下は責め立てた。騒ぎを駆け付けた騎士に半ば強制的に王宮を追い出された。
私が妹に暴力を振るったことは両親に報告され、父に頬をぶたれて叱責を受けた。
殿下とアリシアの関係を訴えたけど父は「それがどうした?王妃になるのならそれぐらい許せる度量を持て」と言われ、母からは私がしっかりしていないからそんな情けない事態になるのだと怒られた。
暫く謹慎を言い渡された。
私が悪いの?
コンコン
「お姉様」
恐る恐るといった感じにアリシアが部屋の中に入って来た。彼女の頬には湿布が貼られていた。
「お姉様、ごめんなさい」
アリシアは駆け寄ってきて椅子に腰かけている私に縋りついた。
「ごめんなさい。いけないことだって分かっているの。でも、私、殿下が好き。愛しているの」
涙ながらにアリシアは訴える。
「私の婚約者よ」
私がそう言うとアリシアはとても傷ついた顔をする。私が、そうさせているの?
全部、私が悪いの?
でも謝っているのはアリシア。許しを乞うているのはアリシア。
なら悪いのは私じゃない。私じゃない。
「わ、かっているの。分かっているわ、ちゃんと。それでも止められないの。愛しているのよぉ」
「そう。じゃあ、どうするの?」
「えっ?」
私は視線を逸らせないようにアリシアの両頬を掴む。彼女の涙に濡れた目を覗き込んで問いかける。
「私から殿下を奪ってみる?」
「っ。そ、んなこと、できるわけ」
「ないの?じゃあ、いつその関係を終わらせるつもりだったの?」
「そ、れは」
アリシアは言葉をつぐんでしまった。
「答えられないの?」
アリシアは母に愛されてはいない。ルラーン人の特徴が出ているから。でも父には愛されている。いつも可愛がられて、頭を撫でられたり、抱きしめられたりしている。
私は一度もされたことがない。母にも父にも。
母にとって見た目がどうであろうと半分でもルラーンの血が入っている私が気に入らないのだ。だけどルラーンの特徴がないから取り敢えずは視界に入れてくれている。便利な道具として使ってくれる。
そしてルラーンの特徴が全くない私を父は疎んでいる。
誰にも愛されない私を唯一愛してくれるのがエーメント殿下だった。
「ねぇ、いつ殿下との関係を終わらせるつもりだったの?」
「いっ」
力を入れ過ぎたせいで私の爪がアリシアの頬に食い込む。血が滲み、アリシアは痛がっていた。私はその姿を見ていい気味だと思った。
私から殿下を奪おうとするアリシアが悪いのだ。
「お、お姉様、ごめんなさい。ごめんなさい」
アリシアは謝罪を繰り返すだけで私の質問には一切答えてくれなかった。
正直、彼女の謝罪は耳障りなだけだ。
「本当に悪いと思うなら殿下と別れて」
「お姉様‥…」
どうしてそんなに驚いた顔をするの?
私の要求はそんなにおかしなことではないでしょう。
「なぁに?もしかして、この関係をまだ続けるつもりだったの?」
「い、いいえ」
アリシアは首を左右に振って全力で否定をする。
「じゃあ、できるわよね」
「っ」
どうして否定するのに行動に移さないの?私がこの関係を続けていいと言うとでも思ったの?
私があなたを許すと思ったの?
「できるわよね」
「‥…はい」