どうしてこんなことになったのだろう。
どんなに考えても分からない。
「痛い、痛いわ。お父様、お母様、お姉様、エーメント殿下」
私は薄暗い地下牢に居た。
そこはかび臭くて寒い。
そこで鎖に繋がれ、吊るされていた。
何が起きたのか分からなかった。
急にオスファルト国が攻めてきて、あっという間に王都を占拠された。
どうして?
オスファルトとは平和条約が結ばれていたはずなのに。
エーメント殿下はどうなっただろう?
お父様は?
お母様は?
私はどうなるの?
「‥‥‥お父様ぁ、お母様ぁ、お姉様ぁ、エーメント殿下ぁ」
コロコロ
牢屋の扉が開いたと思ったら何かボールのようなものが放り投げられた。
確認の為、視線を向けると
「ひっ」
お父様とお母様の首だった。
「どうしたの?さっきからうるさく呼んでたじゃない。だから会わせてあげたんだからもっと喜べよ」
「あっ、あっ、あっ、イ、イス、イスファーン」
どうしてイスファーンがここに?
助けに来てくれたの?
「あっそうだ!俺、あんたにプレゼントあるんだよ」
こんな状況で何を言っているの?プレゼント?
頭おかしんじゃないの。
どうして笑っているの?
オスファルトが攻めてきたのよ。お父様とお母様が死んだのよ。エーメント殿下だってどうなったか分からないし。
「はい、これ。大好きだったでしょう」
そう言ってイスファーンが出してきたのはエーメント殿下の首だった。
首から下がなく、断面からぼたぼたと肉片と血がしたたり落ちていた。
エーメント殿下の口からは涎のようなものが垂れ流され、苦しみながら死んだことが表情から分かる。
「うっ、ごほっ、ほごっ」
気持ちが悪くて胃の中の物を全て吐き出してしまった。
「汚いなぁ。せっかく会わせてあげたのに、その反応はないでしょう。漸くエリシュアから許可を貰ってこんな素敵な姿になったんだからさぁ、ちゃんと見てあげなよ。恋人というか婚約者なんでしょう。あんたらお似合いだよ。とてもね。そうだ、恋人同士の対面なんだからやることあるよね」
「ぶっ」
イスファーンがエーメント殿下の首を私の前に持って来て、涎を流しているエーメント殿下の口と私の口をくっつけてキスさせた。
「うっ、うえぇっ、ごほっ、ごほっ」
気持ち悪い。
「酷いなぁ。ねぇ、エーメント殿下。『うん、そうだよ。酷いよ、アリシア。私のこと愛してるって言ってくれたのに。あれは嘘だったの?』」
イスファーンがエーメント殿下の声真似をして言う。こんな状況で何を考えているの。
「ふざけないでっ!何を考えているの!今がどういう状況か分かっているの!」
「分かってるよ。本当にうるさいなぁ」
イスファーンはボールを放り投げるようにエーメント殿下の首を投げ捨てた。
お父様とお母様とエーメント殿下の首が並ぶ。
みんな死んだ。オスファルトに殺された。
「うっ、うっ、お父様ぁ、お母様ぁ、エーメント殿下ぁ」
酷い。こんなの酷すぎる。
「うざっ。いつまでめそめそしてんの。俺、あんたの汚い泣き顔なんて見たくないんだけど。イリスの泣き顔なら幾らでも見ていられるけど。本当、姉妹なのに全然似てないよね。イリスは見た目も中身も綺麗で、見た目も中身も不細工なあんたとは大違い」