「恋人にはなれないし、婚約者にもなれない。けれど、友達にはなれる」
エーメント殿下と別れなくてはと思って、鬱屈とした気持ちを抱えたままエーメント殿下に会いに行くとそう言われた。
彼と結婚できないという決定事項を突きつけられて悲しくて泣きたい気持ちだった。けれど、ずっと一緒にいられないわけではない。
友達としてなら一緒にいられるんだ。
嬉しかった。
エーメント殿下がどんな関係であろうと私との繋がりを持ちたいと願ってくれていることが。
そうよね。
エーメント殿下だって自分を愛していない、王妃の座にしか興味のないお姉様ばかりを相手にするのはさすがに疲れるものね。
ならば悲しいけれど私はお友達としてエーメント殿下をお慰めしよう。私がエーメント殿下の心の支えになろう。
愛している。
この想いを封印して。
私はエーメント殿下と友達として楽しい学園生活を送っていた。

◇◇◇

「図に乗るんじゃないわよ」
ばしゃんっ
ある日、教室でバケツに入った水をかけられた。
「公爵令嬢として恥ずかしくないの。姉の婚約者に横恋慕なんて、はしたないわ」
「同じ貴族令嬢だと思いたくないわ。こんな人と同じ学び舎で学びたくないわ。お父様に言って学園を変えさせていただこうかしら」
何を言われているのか分からなかった。
教室を見渡すとみんな私のことを侮蔑の眼差しで見ていた。
「仰る意味が分かりませんわ」
私がそう言うとくわっと目を見開いた令嬢たちから罵詈雑言を浴びせられた。
私とエーメント殿下はただのお友達なのに。疚しいことなんて何もしてないのに。
その日から私の地獄が始まった。
物がなくなる、壊されるのは日常茶飯事でみんな私が声をかけても挨拶をしても無視をする。私の存在をいないもののように扱う。
辛くて、苦しかった。
何も悪いことしていないのに。
ある日、中庭で令嬢の集団に囲まれて髪を引っ張られたり、暴力を振るわれていた時にお姉様と目が合った。
けれどお姉様は行ってしまった。
私に気づかなかったのだろうか。
そう思ってお姉様をお呼びしたけどお姉様は行ってしまった。
どうして妹の私が虐められているのに助けてくれないの。そこまで私のことがお嫌いなの。
「あなた、図々しいですわよ。イリス様の婚約者であるエーメント殿下に色目を使っているのに都合が悪くなると妹面して助けを乞おうなんて」
「根性が腐っておりますわ」
「信じられません」
「イリス様が可哀そうですわ」
みんな口々にお姉様が可哀そうだと言い始めた。
もしかしてと思って聞いた。
「お姉様の為にこのようなことをしているの?」
するとみんな「そうだ」と言った。
全部、お姉様の仕業だった。
お姉様はきっと私とエーメント殿下の関係をまだ疑っているんだわ。私たちはもう別れたのに。ただの友達なのに。こんな卑劣なことをするなんて。
そんな人が次期王妃なの?
エーメント殿下を愛してもいないければ、王妃の座に固執し、邪魔だと判断すれば手段を問わず妹でも排除することを躊躇わない人を本当に王太子妃にしてしまっていいの?
私はお姉様ほど優秀ではないけど、それでもこれだけは分かった。
同じ公爵家の人間ならお姉様よりも私の方がエーメント殿下の妃に相応しい。

『アリシア様を虐めるイリス様には王太子妃には相応しくないと思うでしょうね。エーメント殿下はアリシア様こそご自分の妃に相応しいと思われるかもしれません』

それは可能性の話
いいえ。必ずやって来る未来の話

「私の方がエーメント殿下の妃に相応しい」