「うっ」
ばしゃん
ルラーンを攻めた後、王太子を捕えた。見ているだけでムカついたからちょっと殴ってやった。
牢屋の中で呑気に寝ているから水をかけて起こす。
全く。手のかかる王子だ。
「うわっ。なっ、何だ!?」
「おはよう、お寝坊の馬鹿王子。漸くお目覚めですか?」
「お前は?」
馬鹿な王子は俺のことがすぐに思い出せないようだった。イリスの傍にずっといた俺のことを思い出せないなんて記憶力のない王子だな。
ルラーン人の中にオスファルトの特徴を持った俺がいたら誰だって記憶に残ると思うけど。
それともオスファルトの人間なんて記憶に残す必要もないのかな。
「俺さぁ、お前のことが前から嫌いだったんだよね。イリスの傍に居て、イリスに気にかけてもらって。本当、ムカつく」
「これはイリスの仕業か、がはっ」
馬鹿王子の口の中に蹴りを入れた。前歯が全部折れて下に転がる。ダラダラと口から血を流した馬鹿王子は痛みに悶絶する。
イリスが与えられた痛みはこんなものではなかった。それを分からせてやる。
「イリスの名前を呼ばないでくれる。君にその権利はない」
さっさと縫い付けてしまおうか。でもエリシュアが口がきけるようにはしておけって言っていたし。
ああ、面倒だな。
こんな奴に何をさせる気だろう。何もできない無能なのに。
「ルラーンとオスファルトは和平条約が結ばれている。条約を一方的に破るなんて卑怯だぞ」
痛みに耐えながら呻く馬鹿王子の滑稽なこと。
「何言ってんの?オスファルトの王族に当たるイリスを蔑ろにした上に証拠もなく冤罪で断罪した人が。頭ついてる?その頭は空っぽなの?」
「‥…イリ、スが王族?」
ああ、やっぱり馬鹿だった。本当に分かってなかったんだ。だからあそこまでのことができたのか。
オスファルトの特徴を持って生まれたことを認識して、蔑ろにしていたくせに。
本当に都合の良いことしか理解しない奴らだな。
「当たり前じゃん。馬鹿なの?公爵夫人は条約の為に嫁いできたオスファルトの王女なんだからその娘であるイリスがオスファルトの王族になるのは当然でしょう」
「だったらアリシアだって」
ああ、本当に嫌だ。俺を怒らせる天才かよ。
「お前たちにはアリシアしかいなのかよ。自分たちと同じ姿をした奴しか同じ人間だと認められないの?知能の低い動物じゃあるまいし」
もう嫌。
こんな奴と会話なんてするだけ無駄。
さっさと終わらせてイリスのとこに戻ろう。
エリシュアは口が利けるのなら何をしても良いって言ってた。戦後の事後処理の為に聞きたいことがあるって言ってたから壊しちゃダメなんだよね。
それ聞いた時最初は駄々こねたけどよくよく考えたら悪くないかも。
だってずっと正気のまま苦しみ続けるんでしょう。
「じゃあ、始めようか」