「お嬢様、どうかされましたか?」
アリシアとエーメントが愛を交わすようになってから暫くしてからイリスから徐々に笑顔が消えていった。
元々、環境のせいかあまり感情を表に出す人ではなかったけれどここ最近は特にひどい。
「何でもないわ」
そう言ったイリスの手には今度のお茶会もできないという旨が書かれたエーメントの手紙があった。
どうやらあのバカ王子は本格的にイリスを蔑ろにすることを決めたようだ。
オスファルトの王女の血を引くイリスを蔑ろにするなんて許されることではない。アリシアにもオスファルト王家の血が流れているから問題ないと思っているのだろうか。
この国の人種差別には嫌気が差す。
オスファルトの血を引き、その特徴を持って生まれたイリスを馬鹿にするくせに男である俺には色目を使う。一時の遊びに誘う令嬢もいた。誘いながらも言葉の端々、態度で俺のことを馬鹿にしているのはとてもよく伝わって来た。この国は本当に反吐が出る。
「お姉様」
嬉しそうにアリシアが部屋に入って来た。
俺とイリスの時間を奪うなんて、今すぐに殺してやりたい。
でもここは我慢だ。アリシアを殺すのはイリスを手に入れてからでいい。
無邪気に笑うアリシアをイリスは無表情で見つめる。
「お姉様、見て。エーメント殿下が私にくださったの。エーメント殿下はお優しい方ね。私が妹というだけで私まで気遣ってくださるのだから」
はっ。
“妹”というカテゴリーで貰うようなプレゼントではないだろう。
それをわざざわ自慢しに来たってことか。自分の方が愛されていると。
隠れてこそこそ付き合ってい癖に。
それに知っているだろう。イリスが月に一度のお茶会をエーメントから断られたこと。自分が優先されていることで優越感でも抱いているつもりか?
お前如きが?
虫唾が走る。

ああ、さっさと殺してしまいたい。

それからアリシアは度々、イリスに自慢をするようになった。
『ピクニックに誘ってくださったのよ』
『オペラの講演に連れていってくださったの』
『今人気のチーズケーキよ。殿下がわざわざ買ってくださったの。滅多に手に入らないものよ。お姉様にもおすそ分けしてさしあげますわ』
姉が婚約者に会えていないことに気づいているくせに。
アリシアの目にはイリスからエーメントを奪えた喜びやそれでも消えることのないイリスに対する嫉妬が映っていた。
どうしようもない女
薄汚い女
馬鹿な女
お前のような者がイリスと張り合うなど烏滸がましい。そもそも同じ舞台にすら立てない。立ってすらいないことに気づかないのか。その証拠にイリスはずっとお前を無視しているじゃないか。
察しの悪い女。
今のうちに喜んでいろ。
イリスから奪った罪、彼女を傷つけた罪。いつかその身を罰してやる。