誰も私のことを探していないのだろか。
「暮らすにしてもお金がいるはずよ。この邸の維持費だって高いはず。どうやって捻出したの?」
「イリスは何も心配する必要はないよ。俺だって貴族だからね」
まぁ、元王女の乳母が平民なはずがない。
リリーザは元公爵夫人。離婚した旦那さんは婿養子だったはず。つまり、イスファーンは唯一のオスファルト国公爵家の跡取り。
だからってお金があるものなの?
だって彼はずっとルラーンにいたじゃない。
私の従者として働いていたからお給料は出ているので全くの無一文ではないはずだけど。
「俺、今はオスファルト国国王エリシュア・オスファルトの側近なんだ」
「‥…はぁ!?」
とんでもない爆弾を落としてきた。
イスファーンは私の膝に頭を乗せたまま手を伸ばして、私の頬に触れる。
「ねぇ、できる男って感じで格好良くない?ときめいた?」
ウキウキ、ワクワクという言葉ががっつり似合うような表情をして何かを期待してきている。
まるで子供のようだ。ちょっと可愛い。
普段は色気たっぷりなのに、こういう子供のような表情を見せることでギャップ萌えを狙っているのだろうか。作者はなぜ彼をモブキャラにしたのだ。
いや、待て。
騙されるなよ、私。
どんなに顔が良くても目の前にいるのは私の足に枷をつけて、おまけにとんでもない脅迫までして来て、更には監禁しているヤンデレ男だ。
私が少しでも選択肢を間違えると悲惨な末路が待っているのだ。最悪、彼の手によって私は殺されるかもしれない。
「いつから?」
「結構前から。だって、イリスを妻にした時にお金がなかったら恰好がつかないでしょう。俺の妻になるイリスを誰の目に触れさせたくはなかったからイリスが働きに出るのはあり得ないし。でも、イリスが望む物は何でも買ってあげたいから、その為にはお金がいるしね。でも、忙しいのは嫌。イリスとの時間が減るなんて論外。優先事項はいつだってイリス、君だよ。理解のある職場が見つかって良かったよ」
つまりは、かなり前から私のバッドエンドは決まっていたということだ。
「国王の側近って忙しいんじゃないの?その割にはこの邸にずっといるよね」
「仕事はこの邸でしているよ。陛下にお願いしてそうしてもらった。ダメならやらないって断ったから」
つまり彼の我儘を通しでまでオスファルトの国王は彼を欲した。それだけ優秀だということだ。つまり、それだけ頭がキレるということだ。
仕事ができる男は確かに格好いいと思うよ。ただ、その事実が私を奈落の底に突き落としただけで。
本当にどうしてこんな男に目をつけられたんだか。
確かにイリスってかなりの美人だけど、魅惑的な美しさがあるよね。
客観的に見て。前世の私が見たらだから決して自画自賛しているわけではない。私は断じてナルシストではないのだ。
でも、可愛くて男の庇護欲をそそるとしたらやっぱり妹のアリシアでしょう。ヒロインだし。どうしてあっちには惹かれなかったの?
イリスの従者として何度も接して来ていたでしょうに。それに私はエーメント殿下の婚約者だったし。それを考えると私よりアリシアの方が手に入りやすくない?
それとも手に入らないものほど燃えるタイプなのかな?