イスファーンはどうして私に執着するのだろう。
前世の私がこの光景を見たらキュンキュンしてたろうな。
まさか実体験するとは。
イスファーンは今、私の膝枕を堪能中だ。
「頭を撫でて」と彼が言うので撫でている。
こうして見ると甘えん坊の犬みたいだ。
無駄に顔だけは良いんだよね。
人間、必ずどこかに欠点はあるはずだ。この一見、欠点がなさそうな完璧主義者の男でも。と、記憶が戻る前のイリスは思っていた時期があった。
まさか、ヤンデレだったとは。
「イスファーン、外の世界はどうなってるの?あなたのことだから情報ぐらい集めてるんでしょ」
「気になるんですか?」
「そりゃあ、あんな終わり方じゃあ気にならない方が無理でしょ。それにリリーザ、あなたのお母様だってあなたのことを心配してるんじゃないの?」
「まさか」
そう言ったイスファーンの目は冷たく、心臓まで凍ってしまいそうだった。
そう言えばイスファーンとリリーザが話しているところをあまり見たことがないかも。
男の人だし、そういうものなのかと思っていたけど、今の反応を見るにかなり仲が悪いのかな。
「あの人の世界に俺は存在していませんよ。初めからあの人の世界には自分と王女様しかいないんです。だから何も問題ありません」
王女とは私の母のことだろう。
私も母との仲は決して良好とは言えない。
だからってイスファーンの気持ちが分かるとか理解できるなんて傲慢だろう。
その人の感情はその人だけのもの。
似たような境遇でも感じ方は違う。だから彼の境遇を知っても私は彼の気持ちを推測することしかできない。
「どうかしました?」
急に黙ってしまった私を不思議に思い、彼が見上げてくる。
「寂しかった?」
「どうでしょう。そんなもんだと思えば特に何も感じません」
「そう」
でも本当に何も感じていなければあんなに冷たい目はできない。
きっと、最初は愛を求めた。何度、蔑ろにされようと。何度、無碍にされようと。いつかは振り向いてくれると、愛してくれると信じて、信じて、そして失望したのだ。
求めることを止めた。愛することを止めた。その結果が今なのだ。
もしかして、イスファーンが私にここまでの執着を見せるのは歪んだ子供時代を送ったからだろうか。親からの愛情を受けれなかった代わり。
私がエーメント殿下に固執したように。
いや、止めよう。所詮は憶測に過ぎない。そんなのはするだけ無駄だ。
「それで、さっきの私の質問には答えてくれるの?」
イスファーンは拗ねたような顔をしてうつ伏せになる。そして私の太ももに額をぐりぐりと押し付ける。
イケメンじゃなければ許されない所業ね。
「別にいいじゃん。外の世界のことなんて。もう、イリスには関係ないんだからさ。俺たち二人だけの世界でずぅーっと一緒に暮らすんだからさ」