心臓が、ドクンと大きく波打つ。

……聞き間違いか?
しかし、金山さんが「えぇ。本郷さんよ」ともう一度店員の名前を繰り返したので、どうやら聞き間違いではなさそうだ。

もしかして。もしかすると、俺がずっと探していた女性ではないだろうか。


「先生。お花だけでも、主人に渡していただけませんか?」
「……えっ? あぁ、はい。では、看護師の方からお渡ししておきます」

「ありがとうございます」


金山さんは嬉しそうに笑って滝波さんに花束を渡すと、エレベーターに乗って帰ってしまった。


「岡林先生ありがとうございました。私だけの説明じゃ、納得してもらえなかったかもしれません」
「………」

「先生? どうかされました?」

「はっ……いや、大丈夫だ。花束、頼むな」


「もちろんです。すぐ病室へ持っていきます」と、滝波さんはその場を離れる。

俺もナースステーションに入り電子カルテを開いてみたが、金山さんが言っていたフラワーショップのことが気になって仕方がない。

知花が近くにいるかもしれないと言うのに、彼女を探し出せなかったなんて少し悔しい。

「くそっ……」と小さく呟いたとき、胸ポケットに入れている院内スマホが震えた。
すぐさま対応すると、救急車が入って来るらしい。


すぐにでもフラワーショップへ駆け付けたい気持ちを抑えて、俺は救急外来へと走った。