「おい、お前」

「――ヒッ!?」


そこで唐突に私の肩に降りかかった別の声に、張り詰めていた神経の緊張がぷつりと切れる。


「お前な……。幽霊でも見たような声を出すなよ」

「あ、ごめんなさい。何でしょう…?」


ずっと黙って彼らを静観していた“律”と呼ばれるその男は、煩わしそうに眉をひそめながら続けた。


「ここから普通科まで残り5分じゃ到底着かないと思うけど、そんな悠長にしてていいのか?」

「え。全然良くない!」

「早く行けよ」


彼は本日何度目かというくらいのため息を見せつけて、一番奥にあるという普通科校舎への道順を顎で示す。


「あ、ありがとう!えっと、律くん、だっけ。今日のお礼はまたいつか!」

幸か不幸か、時間の差し迫るプレッシャーに襲われながら、私は一目散のその場から駆け出した。


正直、助かった。

(色々と助けてもらった恩は確かに感じるけど……)

無駄に長く続く一本道を小走りで駆け抜けて、私は本鈴の鐘が耳に響かないことを祈りながら校舎を目指した。