「あ?なんだオマエ。いつからいた?」

武留くんと言い合いをしていた不良が、チャラ男の一言に気付いて私の顔を初めて見やった。


(いつからって、最初からいたんですけど)

余程私に興味がなかったのか、今になって(ようや)く私を認識したらしい不良を前にして、思わず顔をしかめる。


「うわ、何でキレてんの。こえー女」

「キレてないです」

「めっちゃキレてんじゃん。なぁ、巧。こいつ誰」

意図的なのか無意識なのか、どこまでも人を苛立たせる才能を感じさせる不良の態度に、ますます眉間のシワが深くなった気がした。


「さぁ?だから聞いてんだけど」

ヘラヘラと目の笑ってない顔で言ってのけるチャラ男は、あくまで私から視線を逸らさない。


「もう。2人して女の子をイジメないでよ。百歌ちゃんは今朝偶然りっくんと知り合った編入生なんだよー?」

「へぇ?編入生」


すかさず助け船を出してくれた天使・武留くんの神対応に心の中で全力で感謝するのも束の間。

チャラ男は彼の言葉を淡々と復唱して、含みのある表情でニヤリと口元を緩めた。


豹が小動物に狙いを定めるような、獲物を捕らえる間際に見せる余韻とも取れるような、切れ味の良いナイフみたいなこの目が――

(苦手だ……)


早くしなければ本鈴の時間が訪れてしまうというのに。
不気味なくらいに美しく微笑む彼の瞳から逃げられない。