〇冒頭・二話の続き・学校・放課後(夕方)

教室でスマホの画面を見て固まる舞羽。
舞羽「え……これって、どういうこと⁉」
届いたメールを見て困惑顔の舞羽。
スマホの画面のアップ絵。
誠二メール『業務連絡。羽衣花先生と連絡が取れません。心配でアパートに様子を見に行きましたが、まだ帰ってきていない様子。学校のどこかでまた倒れてるかもしれない。至急応援求む』※硬い文章。
舞羽「業務連絡って……。羽衣花先生、またどこかで寝落ちしてるのかな? 確かに、お弁当渡したとき、少し顔色が悪かったような……」
続けてメールが届く。チャット形式のスマホの画面。
誠二メール『羽衣花先生は、学校の図書室でたまに執筆しているとの情報あり』
舞羽「図書室……」
誠二メール『支給、図書室へ急行求む』※チャット形式表示。
舞羽「なんで、片言口調なんだろう」
誠二からのメールを見てポツリとつぶやく舞羽。

〇図書室・放課後(夕方)

静まり返る図書室。夕日が差し込んでオレンジに色づく図書室。
誠二に言われた通り陵を探しに来た舞羽。
図書室に入ると、すぐに陵を見つける。
図書室の長いテーブルで突っ伏している陵。

舞羽「……陵、先輩?」
そっと近づく舞羽。
舞羽、寝ている陵を覗き込む。陵の綺麗な寝顔の絵。
風が吹き、ふわっと陵の顔を覆っていた髪の毛がさらりと揺れる。
風に髪の毛が吹かれて隠れていた顔が見える。※綺麗な顔のアップ絵。
舞羽「綺麗な顔……」
思わず声に出す舞羽。
コマ切り替え。テーブルの上にあるノートや資料本。
机の上にあるノートには、小説に使うプロットや台詞が箇条書きに書かれている。

舞羽「家でもずっと小説書いて、学校でも小説のことばっかりなんだ」
陵の綺麗な髪の毛がまたさらりと揺れる。
無意識に髪の毛を触る舞羽。
舞羽(……なにしてんだろ。わたし。思わず触っちゃった)
思わず触れた自分に驚く舞羽。すぐ手を引こうとする。
その手をグイっと陵につかまれる。

陵「なんで、触ったの?」
舞羽「……え、起きてたんですか?」
陵「ねえ、なんで?」
慌てて顔が赤くなる舞羽。そんな舞羽に余裕そうに詰め寄る陵。
舞羽「ご、ごめんなさい。なぜか手が勝手に動いてしまって。陵先輩の髪の毛が綺麗に風になびいてたからかな……」
陵「なるほどね、」
なにか理解したように感心した表情をする陵。
掴んでいた腕を離すと、テーブルにあったノートに書きこむ。(舞羽の行動と発言に触発されて書きなぐっている)
舞羽「陵、先輩?」
ノートに向き合う陵に、心配そうな視線を送る舞羽。
陵「ああ、ごめん。君の行動や言葉が目新しくて、忘れないようにメモを書いてたんだ」
舞羽「目新しいですかね?」
陵「次作は女性が主人公の話を書きたいと思ってるから……女性の行動の参考になる」
舞羽「わたしの行動なんて、参考になりませんよ!どこにでもいる冴えない女ですよ?」
舞羽(自分で言ってて空しくなるけど、わたしは特別美人でもないし……もっと可愛くて目立つような子だったら、 羽衣花先生の物語のお参考になったかもしれない……)
自分の容姿のことでしょんぼりする舞羽。
陵「そうかな?参考になると思うけど……」
舞羽「わたしなんかじゃ……」
陵「物語の参考にさせてよ。これは? どんな気持ち?」
舞羽の顔をグイって持ち上げる陵。舞羽の顔を覗き込むように近づく陵。
舞羽(な、なに⁉ ち、近い!)
至近距離に一気に顔が赤くなる舞羽。陵は表情を変えず余裕そう。
陵「次作の青春小説に書きたいシーンがあるんだけど……ヒロインの気持ちがわからなくてさ」
舞羽「ち、近いです……」
拒否する舞羽。顔を背けようとする。
陵「どんな気持ちか教えて?教えてくれるまで離れないよ?」
動かそうとした舞羽の顔をグイっと掴んで阻止する陵。
妖美に微笑む陵。色気が漏れた陵の表情にドキッと胸が高鳴る舞羽。
舞羽「も、もう!ギブです!これ以上は耐えられないです!心臓がはちきれそうなほど鼓動がうるさいです! 自分の鼓動の音しか聞こえません!」
舞羽(恥ずかしく、顔が熱くて苦しいくらい!)
目をぎゅっとつぶってゆがめる舞羽。
舞羽の反応に、嬉しそうに頬えむ陵。
陵「その言葉、いいね!もらっていい?」
ずっとローテンションだった陵が顔をぱっと明るくさせる。
そんな様子の陵に、少し戸惑う舞羽。
舞羽「ど、どうぞ……?」
舞羽、陵の手がやっと離れて解き放たれる。 
舞羽(陵先輩の表情が明るくなったの初めて見た。彼のテンションが上がるのは、やっぱり小説のことなんだ)
舞羽から離れた陵、テーブルの上のノートに意気揚々にメモをしていく。
口角が上がり嬉しそうな表情の陵。
そんな陵を見てあっけにとられる舞羽。
舞羽(本当に小説のためなんだ。私ばっかりこんなにドキドキしてバカみたい)

~♪ 舞羽のスマホのバイブレーションの音。
誠二からのメール受信。
舞羽「あ、お父さんに 羽衣花先生を発見したこと報告するの忘れてた」
誠二メール『 羽衣花先生が見つかりません。(涙の絵文字)』
舞羽「あー。お父さん焦ってるな。『 羽衣花先生、発見しました』よっと」
誠二メール『(^o^)』
舞羽「 羽衣花先生、じゃないや。陵先輩、お父さんが先輩と連絡つかないって、困ってますよ?」
陵「え、あー。本当だ。着信来てた。50件くらい」
冷静にスマホを見て呟く陵。
舞羽「50件って。お父さん、ストーカーじゃん……」
陵「……今日、プロットの提出期限だったんだ」
舞羽「プロット?」※プロットの意味が分からず首をかしげる舞羽。
陵「あー。プロットは要は小説の構想……かな」
舞羽「 羽衣花先生、新作書いてるんですか⁉」
嬉しそうにはしゃぐ舞羽。対して陵の表情は暗い。
陵「いや、俺はもうだめかもしれないから……きっと、もう新刊が出ることはないよ」
悩まし気に吐き捨てる陵。
舞羽「そんな……私は 羽衣花先生のお話が読みたいです!私にできることはなんでもします」
舞羽( 羽衣花先生のためなら何でもできる。料理も作るし、お弁当も栄養たっぷり作ろう。身の回りのことは私が代わりにやろう!)※舞羽の考える『なんでも』と陵の考える『なんでも』は違いがある。
グイっと前のめりで伝える舞羽。
陵「なんでも?」
舞羽「はい!料理も洗濯も掃除も……なんでも!」
陵「なんでもしてくれるんだ」
ぼさぼさの髪の毛を一気にかき上げる陵。※学校では眼鏡。前髪で少し目元が隠れていた。
前髪がかきあげられて、前髪で隠れていた顔があらわになる。
舞羽「はい!」
陵「だったら、とりあえず俺に迫ってもらえる?」
舞羽「はい!迫ればいいんですね!……せまっ? 迫る⁉」
「迫ってほしい」という頼みに戸惑う舞羽。
陵「 女性から迫られる男の感情を知りたいんだ。羽衣花先生のためならなんでもしてくれるんでしょ?」
小悪魔っぽく微笑む陵。※眼鏡をかけて、髪の毛がぼさぼさの時の陵とは雰囲気ががらりと変わる。
舞羽モノ( 羽衣花先生のためなら、何でもするって言ったよ。確かに言ったけど……)
舞羽モノ(男の人に迫るってどうすればいいの――⁉)