〇冒頭・舞羽の部屋

お洒落で綺麗なマンションが舞羽の家。舞羽の部屋。
本棚には小説がびっしり収納されている。
ベッドに仰向けに寝転がる舞羽。両手を天井にかかげるように本を持っている。
舞羽「あーやっぱりいい。 羽衣花先生の書く話は最高だー!」
ぎゅっと本を抱しめて、じたばたと悶える舞羽。
小説のラベルのアップ。『タイトル:蒼く染まる君を見つめる 著書: 羽衣花』
 
羽衣花(ういか)先生:小説家。舞羽は羽衣花先生の大ファン。

〇場面転換・リビング(夜)

本をぎゅっと大事そうに抱きかかえてリビングへと向かう舞羽。
リビング繋がりのダイニングキッチン。キッチンでご飯を作っている舞羽の父:誠二。※爽やかな風貌。
誠二「おー。舞羽、ちょうどご飯が……」
舞羽に声を掛けながら、フライパンからお皿に料理を移している誠二。
舞羽「お父さん!羽衣花先生の小説は何度読み返しても最高だよ。」※誠二の台詞にかぶせる感じ
舞羽、嬉しそうに微笑む。小説を抱きしめて、自分の世界に慕っている舞羽。
誠二「 羽衣花先生の小説は最高だろ!なんていったって、担当編集が仕事できる男だからな!ははっ」
舞羽「 お父さん、羽衣花先生の新刊はまだなの? 羽衣花先生の担当でしょ?」
※誠二:出版社勤務。 羽衣花先生の担当。 羽衣花先生との付き合いはデビュー当初から。
キッチンに身を乗り出して質問する舞羽。
誠二「あー。次回作はどうだろうな。 羽衣花先生は……いろいろ忙しくてな」※言いにくそうに言葉を濁す誠二。
舞羽「早く読みたいのになー」
はっきりとしない誠二の答えに拗ねて口をとがらせる舞羽。
困ったような表情をする誠二。頭をポリポリとかく仕草をする。
舞羽( 羽衣花先生の新刊が出たら、すぐに買おう。読む用と、保存用と、観賞用で3つ買おう!)
困り顔の誠二を気にもせず、小説を抱きかかえて自分の世界に入り込んでいる。

〇回想シーン(舞羽幼少期)

幼い頃の舞羽、本に囲まれた部屋に座っている。
舞羽モノローグ(以下モノ)「出版社で編集の仕事をするお父さんの影響で、わたしの生活環境には幼いころからずっと本が身近にあった。わたしが小説の世界に惹かれていくのは必然的なことだった」
舞羽モノ「小説の世界は広い。綴る文字がわたしを小説の世界に連れてってくれる」

本がびっしり収納された本棚に囲まれる幼い舞羽、本に夢中になっている。

(回想シーン終了)

〇元のリビング

舞羽モノ「わたしは小説が好きだ。特にどハマりしたのが、お父さんが担当する作家さんの一人、羽衣花先生だった」
舞羽モノ「羽衣花先生の綴る青春小説は、心があたたかくなったり、ぎゅっと締め付けられたり。綴られた文字を読めばその世界に入り込むような」
舞羽モノ「こんな素敵な世界を教えてくれた 羽衣花先生はわたしの神様!これが推しってやつかな!アイドルにも興味なかったわたしの初めての推しは 羽衣花先生だ!」
小説を掲げて仰ぐ舞羽のデフォルメ絵。

舞羽(これだけ素敵なお話を綴れる羽衣花先生ってどんな生活してるんだろう?きりっとした美人さんかな?ほわほわした優しい感じの方かも)
舞羽の思い描く 羽衣花先生のシルエット(後ろ姿など)綺麗な大人の女性の絵。
うっとり顔の舞羽。
舞羽(素敵な人なんだろうなあ……。いつか会ってみたいな)

舞羽「お父さん、 羽衣花先生ってどんな人?こんなに素敵な小説を書くんだもん。素敵な人なんだろうなー。美人さんかな?こんなにきれいな世界を描けるってことはお父さんと同じくらいの年齢の大人かな?」
誠二に質問攻めをして、興奮する舞羽。後半は一人でぶつぶつと話す。
困った表情をする誠二。
誠二「…… 羽衣花先生はなー、」
舞羽「うん!」
言葉を詰まらせる誠二。そんな誠二にキラキラした瞳を向ける舞羽。
舞羽の視線からそっと視線をそらす誠二。
誠二「作家の個人情報は言えないんだよ……」※言いたくても言えず苦しそうな表情。
誠二、舞羽の目を見ないまま話す。
舞羽「そっかー。そりゃそうだよね。じゃあさ! 羽衣花先生の新刊は?それくらいならいいでしょ?いつ頃発売予定なの?絶対に誰にも言わないからさー」
誠二「いや…… 羽衣花先生は当分新刊の発売はないよ」
気まずそうな表情の誠二。誠二の言葉に一気に哀しそうな顔をする舞羽。
舞羽「なんで⁉ この小説だって、発売されたのは1年以上前だよね⁉ 売れてるはずなのに、なんで次回作を書いてないの?」
誠二「いや…… 羽衣花先生は忙しいから。ほら、まだがくせい……、いろいろ私生活の方忙しいんだよ」※学生と言おうとして中断する。
作家の個人情報を言ってしまいそうになる父。慌てて口を押える。
誠二(危ない危ない。作家の個人情報をいくら娘とはいえ、言う訳にはいかないからな)

慌てる誠二を見て、不思議そうにする舞羽。
舞羽「え、羽衣花先生って専業作家さんじゃないの?」
父「ま、まあ、そんなところだ……。担当は作家の個人情報を教えるわけにはいかないから、いくら可愛い娘でもこればかりは教えられないよ」
舞羽「……そっか」
舞羽( 羽衣花先生は、忙しいんだ……。専業作家さんだと思ってたけど。他にも仕事してる人なのかな。図書館の司書?OLさん?学校の国語の先生とか?)
綺麗な女性のシルエット。 羽衣花先生を美化して想像する舞羽、うっとり顔。

〇場面転換・次の日・マンション(夕方)

次の日、学校帰りの舞羽。
マンション玄関前アプローチにドアにもたれかかるように倒れる人影。
足が止まり、見覚えのない人影に驚く舞羽。
舞羽(だ、誰⁉ なんでうちの前に……)
足を止め、そっと様子を伺う舞羽。
顔は俯いて微動だにしないで座る陵。※舞羽は気づいていないが、実際は寝ているだけ
舞羽「う、動かない? 私の家の前で……人が死んでる⁉」
微動だにしない陵が死んでると思った舞羽。
恐怖より心配が勝ち、かけより陵の体を揺さぶる。
舞羽「あ、あの!大丈夫ですか?」
陵「……」
揺さぶられて、少し反応する陵。瞼がピクリと動く。
舞羽「ど、どうしよう。お父さんに連絡。その前に警察?救急車?」
警察に連絡しようとスマホを操作する舞羽。
舞羽の腕を掴んで静止させる陵。
舞羽「えっ⁉」
突然陵に腕を掴まれて困惑する舞羽。陵、瞼を開ける。※美形な顔のアップ絵。
陵「警察はだめ……誠二さんに迷惑、かかるから……」
舞羽の腕を掴みながら、じっと見つめる陵のアップ絵。※綺麗な顔、上目使いの陵。
舞羽の胸がドクンと鳴る。
舞羽「え、」
陵「誠二さん……に、会いに来ただけ」
舞羽「誠二? って、お父さんのこと?」
こくんと頷く陵。そして、ばたりとまた目を瞑る陵。※相当な寝不足により、起きていられない陵。
陵、そのまま舞羽にもたれかかる。

舞羽「えー⁉ また意識失った?」
陵が意識を失ったと勘違いして慌てる舞羽。
舞羽「お父さんの知り合い⁉ こんなイケメンが?」
ちらりと舞羽にもたれかかる陵に視線を落とす舞羽。綺麗な顔の陵にドキドキする。
舞羽「えっと、お父さんに連絡しよう……」
父に電話をかける舞羽。

誠二「もしもし?舞羽?どうした―?」
舞羽「お、お父さん⁉ 男が倒れてて、家の前に……!」
誠二「なんだって⁉ 男が?」
誠二、驚いて声が大きくなる。舞羽、焦り始める。
舞羽「えっと……誠二さんに会いにきたって。また目を開けなくて……でも、たぶんかなりのイケメンで。警察に通報しようと思ったけど、美しい顔で『だめ』って言われて。今は私にもたれかかってまた意識失っちゃった!」
混乱して慌てる舞羽。早口で捲し立てる。
誠二「……美しい顔?もしかして、ういか……倉木くんか?」
舞羽「倉木くん?だれ?」
誠二「いや……えっと」
舞羽「やっぱり警察に電話した方がいいよね?」
誠二「だめだ!警察沙汰になると困る!舞羽、その美形の青年はお父さんの知り合いの倉木くんだと思うんだ。試しに『締め切り明日ですよ?』って言ってみて?」
誠二の提案に首をかしげる舞羽。言われた通り陵に告げる。
舞羽「……?『締め切り明日ですよ?』」
わけもわからないまま、誠二に言われた通り陵に声を掛ける舞羽。不思議そうな表情。

舞羽の声掛けに瞬時に反応する陵。がばっと起き上がる。
舞羽「ひっ!」
いきなり飛び起きた陵に驚いて目を見開く舞羽。
陵「……締め切り伸ばせませんか?」
ぽつりとつぶやいて、また舞羽に倒れこむ陵。
驚いて固まる舞羽。電話越しの誠二の声が届く。
父「舞羽。その青年はやはり倉木くんで間違いない。怪しい人じゃないから、家のお父さんのベッドに寝かせてくれる?」
舞羽「……ええ!……わ、わかった」
驚きながらも、誠二の提案を受け入れる舞羽。
ちらりと陵に視線を落として心配そうな顔をする舞羽。
 
〇場面転換・舞羽の自宅・誠二の部屋(夕方)
父・誠二の部屋。※ベッドに陵を運び終えた後に場面転換。
ベッドに眠る陵。綺麗な顔で眠っている。
陵が眠るベッドのわきで、陵を見つめる舞羽。
舞羽(やっぱり、この人凄い美形だ。鼻たかーい。まつ毛長い)
眠る陵の美貌に見とれる舞羽。
舞羽(救急車呼ばないで本当に大丈夫かな? もしかして高熱とか?)
寝ている陵にそっと近づく舞羽。おでこに手のひらを当てる。
舞羽「熱は……ないな」
熱がないことに安心する舞羽。次の瞬間、陵にグイっと腕を引っ張られる。
舞羽「ひゃあ!」
引っ張られた拍子に陵の体の上に乗る舞羽。陵の顔と近い。
舞羽と陵、至近距離で見つめ合う絵。
舞羽(至近距離で見てもイケメンだ)
陵「……誰?」
寝ぼけ眼で話す陵。舞羽と至近距離なのに全く動じていない。※陵、寝起きで状況を把握できていない。
舞羽「そ、それはこっちの台詞ですよ! 人の家の前で倒れてて」
陵「……俺、倒れてた?」
ぼけーっとする陵。至近距離の陵に、心臓がどきどきする舞羽。
舞羽「あ、あの、いい加減離してもらえませんか
陵「え?」
舞羽「手ですよ!ずっと引っ張られてます」
顔を赤くしながら訴える舞羽。
視線を手に移す陵。自分が舞羽の手を引っ張っていることに気づく。
陵「あー。わるい」
全く悪びれもなく、ぽつりと謝る陵。
舞羽(なんなの⁉人の家の前で倒れてたり、人の腕引っ張ったり……)

陵「この部屋は?」
舞羽「お父さんの部屋です。お父さんとはどういう関係なんですか?」
舞羽の質問に答えず、部屋に飾られた 羽衣花の小説をじっとみつめる陵。
棚の上にラックに綺麗に飾られた 羽衣花の小説の絵。
陵「……あ、誠二さん、飾ってくれてるんだ」
自分の著書が飾られていて、微笑する陵。
舞羽、陵の視線が 羽衣花先生の小説に向けられていることに気づく。
舞羽「 羽衣花先生知ってます? わたし大好きなんです。 羽衣花先生の描く状況描写は本当に美しくて……よかったら読んでください。私三冊持ってるんで、貸しますよ?」
推し( 羽衣花先生)に興味を持たれたと思い嬉しい舞羽。早口で話す。
陵「あー。いらないよ。書いたの俺だから」
舞羽「え、いらないなんて。ぜひ読んでみてくださいよ。書いたのは……お、俺⁉ なんて?」
陵「え?俺が書いたって言った」
無表情で淡々の話す陵。
状況が分かっていない舞羽。
舞羽「え……」
陵「あれを、書いたのは……」
人差し指で飾られた 羽衣花の小説を刺す絵。
陵「おれ、」
次に、人差し指で自分をさす陵。
舞羽、飾られた小説に視線を移す。次に陵に視線を移す。交互に視線を移す。
舞羽「 羽衣花先生って……男⁉」
舞羽モノ「わたしの憧れで推しの先生は……男の人でした」