彼は推しと瓜二つ

 
雅之「1年ほど離れて暮らしていたけど、父親が海外転勤する事になって、俺たちはアメリカに住む事になった。
この事はMITSUKIファンなら知ってますよね?」

音は頷く。


◯雅之の話しに合わせた回想シーン


雅之「アメリカでは、光之はPTSDの治療を受けながら、俺はダンスを習い直して、家族も前向きに暮らし始めていった。

…でも医者からは、何故もっと早く治療を受けなかったんだと言われたらしい。
北海道での暮らしがどうだったのか、俺にはよく分からない。光之もまだ幼くて記憶が曖昧だったし、父親は婆ちゃんから聞いてたはずだけど、あまり教えてはくれなかった。

医者が言うには、もっと早く治療をしていれば、1年以内に完治も出来ただろうって。

治療が遅かった事や、環境の大きな変化も重なって、光之は後遺症が残ってしまった。


一見治ったように見えて父親も喜んではいたけど、双子の俺には隠せなかった。

光之は治ったフリをして病院にも通わなくなったけど、悪夢はよく見ていたし、心も不安定で、パニック症状が度々出ていた。
…それは大人になった今でも。」


◯回想シーンからベンチの場面に戻る


音「……だから、2人でMITSUKIをする事になったんですね…。」


雅之「……はい。
いつどこで症状が出るかも分からないので。
…SNSの生配信は事務所内でやってるから大丈夫なんですが………」

雅之は音の顔をチラッと見る


音「何となく予想もしてますし、大丈夫です。
どうぞ続けてください。」


雅之「…まぁ…その、生放送やライブみたいに急な事態への対応が難しい時は、俺がやっていまして……」

雅之は申し訳なさそうに、音の方を見る。


音「ライブの時はダンスのキレがMV以上でヤバいって多くのファンが言っていますが、それぞれ別の人がされてたんですね。」


雅之「…お互いの特徴が出ないように調整してるつもりではあるんですけどね…。
歌番組だと意識は出来ても、ライブは俺もハイになっちゃって、ついやりすぎちゃう時があったりして…」


音が笑う。
雅之は呆れられると思ったため、意外な反応に驚く。


音「雅之さんは小さい時からダンスを習い続けて、本当にダンスがお好きなんですね!
あ、もしかして、MITSUKIが振付担当してるって言うのは……」


雅之「……俺っすね……。
俺、アメリカでプロのダンサーになるのがずっと夢で、父親と光之が日本に帰ってからもしばらくアメリカにいたんです。
でも光之が事務所にスカウトされたのをきっかけに俺も帰国して、今に至ってるって感じで。」


音「え、じゃあ……雅之さんは自分の夢を諦めてアイドルになろうと…?」


雅之「いや、別に諦めたとか、無理にアイドルの道を選んだとかじゃないっすよ?
アイドルなら今まで努力してきたダンスの成果を思う存分に発揮できるし、自分が振付けしたダンスを多くの人達に見てもらえて、多くの人が真似して踊ってくれるなんて、こんなに最高なことはないです。
だからこの道で頑張っていきたいって俺自身が思って決めたんです。」


音「そうだったんですね。
そういう風に思える仕事ができるなんて、本当にすごいです。
雅之さん、話してくれてありがとうございました。」


雅之「こちらこそ長々と話すだけで、上手に伝えれたかは分からないですが……話せて良かったです!
ありがとうございます。」


音「あ、これも……ありがとうございました…」


音は立ち上がり、肩にかかっていた雅之のジャケットを返そうとする。
しかし、雅之はそれを止める。

雅之「まだいいですよ。
  時間も遅くなって危ないので、家の近くまで送るんで。」

音「え、いや…ここから歩いても近いので大丈夫です!!
一緒に歩いてるのを誰かに見られて噂にでもなったら大変ですし、これ以上ご迷惑をおかけするわけには…」


雅之は腑に落ちない顔をする


雅之「もう暗いし、帽子を被ってたら誰かなんて分かんないですよ。
それに俺が引き止めたんだから迷惑かけてんのはこっちの方だし、そこは気にしないでください。

…あ、恋人とか、旦那さんに見られるとマズイとかだったらアレですけど………すみません、何も考えず…」

雅之は自分のジャケットを慌てて取ろうとするが、今度は音が拒む。


音「……ずっと1人暮らしなので、そこに関しては全く!問題は無いので………

……やっぱり、送るのお願いします。」


雅之は口元がほころぶ


雅之「了解です!
あ、杉山さんの下のお名前ってきいても良いですか?」


音「…音っていいます。音楽の音の字です。」