彼は推しと瓜二つ

◯雅之の話に合わせて、過去の回想シーン

雅之「5才の頃、俺たちはいつもの様にダンス教室に行くはずだった。
でも、光之はその日に限って行きたく無いと駄々をこねて、俺が終わるまでの間、母さんと買い物をしに行って……
行ったスーパーが特売日だったのか人混みがすごかったらしく、光之は母さんとはぐれてしまった…。
母さんは人混みの中、光之を必死に探そうとしたらしいんだけど………」

◯現在の映像に戻り、雅之の話しが始まると同時にまた回想シーンになる

雅之の言葉が詰まる。
雅之は言葉が切れ切れになりつつも、感情を堪えながら話し続ける。


雅之「誰かが思い切りぶつかったのか、品出し中の、積み上がったダンボールが急に倒れてきて…逃げ場も無い母さんは下敷きに………なって…。当たりどころが悪く、母さんはそのまま…………。
光之は、母さんが倒れてその場が騒然となった所で出くわして、頭から血を流す母さんを目の前で…っ……すみません…」

雅之は呼吸を整えた。

雅之「…光之は母さんが死んだのを目の当たりにした事で深い傷を負って……PTSDと診断された。
光之は、あの時に自分が手を離さなければ、母さんが巻き込まれる事も無かったのではと、ずっと悔やんでいる…。
あまりにショックな出来事のせいで、光之自信の記憶もあやふやになって、母さんが店の中で暴漢に殺される夢まで見るようになった。
その時の状況調査もあって、俺は父さんからその話しを聞いたから、本人からは聞いたことないんだけど、
光之が夢でうなされるのは何度も見ている。」


音(言葉が出ない……親が死ぬなんて大人でも耐えられない出来事を、まだたった5歳の子が目の前で見てしまうなんて、どんなに辛い出来事かなんて想像もつかない。
ましてやそれがスーパーで起こった事だなんて……。)


雅之「光之はそれ以来、スーパーに行くのはおろか、人が多い都心の中で暮らすことなんて、とても耐えられる状況じゃなかった。
それで、北海道の田舎にいる婆ちゃん家に光之だけ預けられる事になった。
俺は出来事に遭遇して無かったけど、双子という性質のせいか光之の精神状況に引っ張られそうになったみたいで、離すことにしたらしい。」


雅之は遠くを一点に見つめたまま話し続けていたが、ふと我に返ったように、虚無な顔が柔らかい表情へと戻り、音の方を見る

雅之「……すみません、いきなりこんなヘビーな話ししちゃって…。まだ続くんですが……」


音「びっくりはしましたが、大丈夫です。ただ、私なんかが聞いちゃって本当に良かったのかなと……。」


雅之「杉山さん、『私なんかが』ってやめましょう。
俺が光之や事務所に言わず勝手に人に話しちゃってるのは怒られると思いますが……

それでも、俺は杉山さんの仕事や人に対する誠実な姿だとか、ファンとしての姿とか、少ししか見てないけど、この人なら大丈夫って思ったから話してるんです。
バレたから仕方なくとか、誰でも良いわけじゃないって事は分かってください。」


音をまっすぐに見つめ、手を取り握りしめる雅之。
音は照れつつも、雅之の真っ直ぐさに応える。


音「分かりました…ありがとうございます…。」


雅之「…じゃあ、話しを続けますね…。」


雅之は握りしめた音の手を、優しく彼女の膝の上に置いて戻す。