ブローに移ったときだ。

「カキツバタさん、やな」
僕の名札を見て彼女が言った。
「杜若」をちゃんと読める人はそうそういない。

「よくご存じですね」
「あたりまえや。私は書道の師範です」
ピシャリと言う声が自慢気に響いた。
ああ、なるほど。指示口調が先生ぽい。

「下の名前はなんて?」
僕も自分の名前が嫌いだ。
「……たけおです」
渋々名乗る。

「どんな字?」
――しつこいな。

「……大丈夫の丈夫と書きます」
すると彼女の顔がパッと輝いた。
「ほうー、『ますらお』やないの。万葉集やね」