半年経つ頃には、少しは僕に気を許してくれたのか、時々近所の人の悪口を聞かされるようになった。

「近くへ寄り」と僕に手招きしてから、こそりと打ち明ける。
「ここに通ってくるあの人な、男にしつこく付きまとわれてるらしいで」
「私、出入りの薬屋に、着物をみーんな盗られてしまってん」
「ウチの旦那はホンマ男前やったんよ」
どれもみな眉唾の話だが、内緒話を共有してくれるのは、彼女なりの親近感の表現だろうと受けとめた。

「アンタのシャンプーは完璧やな」
ご機嫌のいい日には、そんなことまで言ってくれた。
これまでの指示は全て守っているから、今の僕の施術は確実に彼女専用のカスタマイズだ。
これだけ要望に応えてくれた美容師は、未だかつてないんじゃなかろうか。
少なくとも今この美容院で、彼女の希望通りにできるのは、僕しかいない。
アヤメさんを満足させられるのは僕だけだ。
他の人に任せたくない。

アヤメさんとボクは、ある意味相思相愛だった。