来た…

隣のクラスがざわめき、盛り上がったのが聞こえたのは4時間目が始まる前の短い休み時間だった。

心の中でガッツポーズした俺は、教室中央の最後尾の席に座ったまま、握力を鍛えるハンドグリップをニギニギする。

「邦親、にやけてる」

そんなわけないだろ…視線だけ、一瞬直季に送ったとき

「三井くん」

はっ?俺?にっしなさんが来た?来たばかりのにっしなさんが、俺?

「西名さーん、おかえりぃ。邦親、ここだよ」

直季は喋んな。彼女は俺に用があるんだ、俺。

「ん、来てた…」

そう言いながら躊躇いなくA組の教室へ入って来た西名さんに、俺は座ったまま声を掛けた。

「今日から来た。西名さんは、今?」
「そう。あの…三井くん…」

おっ?さっさと歩いて来たわりに口ごもる…告白のパターンに含まれるやつだよ、これ。

「うん、何?」

いつもなら余裕で聞き返せるコノセリフだが、今日は彼女の圧巻の可愛いオーラに自分が飲み込まれている気がする。

でもクラスの皆はもちろん、B組からの野次馬の視線も浴びて俺は懸命に微笑んだ。どうぞ、西名さん…告白はちゃんと受け止めるよ、ってね。