うちの前でバイクが止まると、きぃちゃんの両肩を掴んでステップの上で中腰になる。右足を大きく上げてそのままバイクの左側に右足を着き、左足を地面に降ろして両肩を離すはずが…ぐいっ…

「何？」

手首を掴まれた。きぃちゃんはその手をすぐに離すとゴンッ…私のメットに手刀を落とす。

「明日から騒がしいぞ」
「そうかな？」

メットを脱いでインカムを切ってからボン…とメットをきぃちゃんに渡した。

「絶対だ」
「まあいいよ。どうにでもなるんじゃない？」
「まあな」
「ありがと。急ぐね」
「ん、用意してもらえ。ユキが待ってる」
「だよね」

中野喜市(なかのきいち)探偵事務所

ぐっと開ける磨りガラスに小さく書かれた文字を見て“何でも屋”だけどね、と思うのはいつものこと。

中野喜市は母方のじいちゃんのお父さん、つまり私の曾祖父の名前だ。きぃちゃんは、たまたま同じ“きいち”っぽい、森岡輝一郎っていう29歳の従業員であり私の家族。

ここの従業員は、きぃちゃんもユキちゃんもしもっちゃんもみんな私の兄で、時々パパみたいで家族。現在の事務所の代表は私の祖父、中野市朗太だ。