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満月の夜、君は眠った。
美しく、そして儚く。
月光に照らされた君の髪は、瞳は、
地球上の誰よりも輝いていた。

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海山 日向(17)
主人公視点の男の子。
陰キャよりの陰キャ、家庭に問題あり

月影 雫(17)
2年生から登校してきた女子。
何か病気を患っている。

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高校1年、冬。

父「誰の金で生活してると思ってるんだ!!」
久々に聞いた父の声は、耳に響く怒声。
普段弟の遥斗と2人で生活している僕は、深夜に帰ってきた父の罵声を浴びていた。
誰の金、か。最低限の金しか入れずに遊び呆けているくせによく言えたものだ。
僕はいつも通り適当にやり過ごそうと、父の言葉を右から左へ、受け流していた。
父「おい!聞いてるのか!?」
日向「…」
ドゴッ
冷えきった廊下に響く、嫌な音。
あぁ、またか、と殴られた現実をすぐに受け入れる。父はすぐ癇癪を起こし、手を上げる人だ。幼い頃からずっとそう。
僕はただ、この地獄のような時間が過ぎるのを待つことしかできなかった。
遥斗「…父、さん…?」
すると、廊下の奥から寝ぼけた顔の遥斗が出てきた。僕の殴られて赤くなった頬を見て、状況を理解したのか駆け寄ってきた。
遥斗「やめてよ父さん!兄さんは何もしてないだろ!?」
父「…」
遥斗が出てくると、父は何も言わずまたどこかへ出かけていった。父は遥斗に対しては何もしないのだ。僕にだけ、暴力を振るったり、罵声を浴びせてくる。
遥斗「ごめん、兄さん…俺がもっと早く起きてれば…」
日向「別に、抵抗しなかったのは僕だし。ほら、早く寝よう。」
弟にこんな事を言われ、自分が情けなくなる。本当は兄である僕が、遥斗を守るべになのに。父が出て行ったことへの安堵と、弟を守れない情けなさに支配されながら僕は眠りについた。

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高校2年、春。

今日から新学期だ。新入生が入学し、僕たち在校生は進級する。みんな新生活への期待と不安でキラキラしていた。そんな中、僕は1人重い足を引きずりながら教室へ向かった。
クラス替えの直後のため、いつになくクラスがざわめいている。友達なんて元より少ない僕は、誰かと話すこともなく席についた。
???「あっ日向君!また同じクラスだね!」
朝から元気に声をかけてきたのは、1年の時のクラスメイトであり僕の唯一の友達である飯田 悟だ。
日向「おはよう、飯山くん。朝から元気だね。まさかまた同じクラスだとは…」
悟「まさかって失礼だな、僕と同じクラスで嬉しいだろ?」
日向「…別に?」
こんな他愛もない会話を、また今年も彼と出来ると思うと少し嬉しく思った。
悟「あっそう言えば今年から月影さん登校してくるらしいよ」
日向「月影?…誰、それ」
今年から登校してくると言うことは、去年は殆ど来なかったのだろうか。ただでさえ友達のいない僕が知るわけがないだろう。
悟「ほら、なんか病気?でずっとオンライン授業受けてた女子だよ。月影 雫。」
日向「へー…」
なんだか聞いたことあるような、ないような…。まぁ自分には関係ないだろうと、この時はすぐに忘れてしまった。その彼女の秘密を知るとは知る訳もなく_...。

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雫「始めまして、月影 雫です。去年までちょっと病気で、オンライン授業を受けてましたが登校出来ることになりました!これからよろしくお願いします!」
新学期恒例の自己紹介で、月影 雫と名乗る女子がいた。あぁ、この子か、と今朝の飯山くんの話を思い出す。彼女はとても整った顔立ちをしていて、仮にも少し前まで病人だったとは思えない程に。黒く長いサラサラの髪と、どこか憂いを帯びているような透き通った瞳は彼女の美しさを引き立てていた。基本人に興味のない僕ですら綺麗だと思う程なのだから、彼女が人気者になるのは時間の問題だろう。まぁ、僕みたいなのとは一生関わることのないだろう人種である。
そうこうしているうちに、僕の自己紹介の番が来た。面倒くさい。
「…海山 日向です。1年間よろしくお願いします。」
誰によろしくというのだろう、と心の中で呟きながら席に戻った。
担任「えーこのクラスの担任を受け持つ事になった、相田 詩織です。1年間よろしくお願いします。早速ですが、今の席は出席番号順なので席替えをしようと思います。くじ引きをするので番号順に来てくださいー」
本当に早速だな、と思いつつ言われた通りにくじを引いていった。
くじの結果は、ありがたいことに1番後ろ。どうせ隣になりたい友達など居ないし後ろの方で困る事もないので心の中で小さくガッツポーズをした。
すると、隣の席の男子が声を上げた。
クラスメイト「せんせー俺目悪いんで席変わってもらいたいんですけどー」
相田先生「そうね、前の方の席の人で後ろでも大丈夫って人いる?」
雫「あ、じゃあ私移動します」
女子の声だったので、僕の隣が女子であると思うと少し面倒だなと思った。
雫「えっと、海山 日向くん?私、月影 雫。ってさっき自己紹介したばっかか笑 隣の席としてよろしくね!」
彼女は屈託のない笑顔でそう言った。僕なんかにも挨拶してくれるのか、この子は。
日向「…よろしく。」
僕は短く返事をした。まるでこれ以上会話を続けたくないと言わんばかりに。

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休み時間になると、隣の席が騒がしい。
厳密に言うと、月影 雫の周りがだ。
やはり僕の予想通り、入学早々彼女の周りには人が集まっていた。隣に座る僕としてはいい迷惑だ。聞き耳を立てるつもりはないのだが、隣で話されるとどうしても会話が聞こえてくる。
クラスメイト「月影さんってめっちゃ可愛いねー!」
クラスメイト「私もこんな可愛い子が同学年だとは思わなかった〜」
クラスメイト「入院してたって言ってたけどよく進級できたね」
クラスメイト「てか雫ちゃんって読んでいい?連絡先も交換しよー!」
彼女のその美貌と、入院してたという他にないエピソードからかクラスメイトからは質問の嵐だった。僕だったらウンザリしてシカトしていただろう。けれど、彼女は違う。常に笑顔で、1人1人の話をちゃんと聞いていた。
雫「ありがと〜!授業はオンラインでなるべく参加してたし、課題とかテストもちゃんとやってたからなんとかなった感じかな。てか連絡先交換してくれるの!?LINEでいいかな?」
休み時間が終わる頃には、彼女はクラスの殆どの人と連絡先を交換していたようだ。想像以上のコミュ力だな。
雫「あっねぇねぇ海山くん。」
急に声をかけられ、ビクッとしてしまう。
日向「…なに」
雫「よかったら、海山くんも連絡先交換しない?」
僕みたいなのと交換してどうするんだろう。彼女は優しそうだし、休み時間もずっと1人でいた僕へのお情けだろうか。
日向「…いや、いいよ。ありがたいけど、僕あんまりLINEとかしないし。」
少し、突き離したような言い方になってしまっただろうか。いや、元々僕はこういう話し方なんだから仕方ない。
雫「ん、そっか!ごめんね、急に」
彼女は一瞬表情を曇らせたが、すぐに笑顔に戻りそう言った。
その笑顔の先に、大きな壁を感じたのは僕の気のせいだろうか。1軍と3軍、陽キャと陰キャのようなそんな小さなものではなく、もっと大きな、そんな何か...。

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