本当は、怖いはずなのに。

悔しいはずなのに。

「歌って」

俺は何も考えずに、そう言っていた。

「……え?」

突然のことに、優奈の取り繕っていた笑顔が外れる。

「俺、この前話しただろ?誰かに歌って貰うことを勧められてるって」

「そう、だけど……」

「その役、優奈がしてくれない?」

「でも、私……」

顔を暗くして断ろうとしてきた優奈の言葉を間に入って無理矢理止める。

「もし本当に声が出なくなるなら、」

自分でそう言って、喉がぐっと詰まる。

声が出なくなるのんて嫌だ。

でも、その前にやれることがあるのなら……。

優奈の声を、この世に残しておくことができるのなら。

「最後の思い出になるし、小さい頃、約束したでしょ?」