俺は真っ直ぐ汐帆の視線を捉える。



俺に向けた鋭い視線の先には、自分自身でも抱えきれない程の苦しみが伝わってくる。


「本当に、誰も信じられなくて本気で誰もいらないと思うならもっと強気で俺の言葉に反抗しろよ。」



汐帆から視線を外し、俺は汐帆の額に自分の額を当てていた。




孤独を抱え、誰かの温もりに触れたいと思ってきたから汐帆は今こんなに取り乱しているんだと思う。



自分では知られたくない心の内を隠そうと必死になっていることも…



「汐帆、本当に孤独になった時自分が思ってる以上に寂しいぞ。そうなったら、汐帆が想像する以上に寂しくて耐えきれないと思うぞ。」




「分かったようなこと、言わないで!


勝手に誰かに期待して信用して裏切られて。そんな煩わしい人間関係なんて必要ない。


私はもういらないの!何も…求めたりなんて…」




「……ったく。」




強がっている汐帆の身体を再び自分へ抱き寄せた。




「本当。意地っ張りなんだから。

まあ、ある意味自分の意思がちゃんとあって真っ直ぐで素直だけどな。」




それから俺は、汐帆の身体を持ち上げ自分と向き合う形に膝の上に乗せた。




「もういい加減に……」




「ずっと…苦しかったんだろ?」




汐帆の頭を胸に抱き汐帆に問いかける。




「ずっと誰にも頼らず1人で必死に生きてきたんだよな。


こんなに小さい身体で、必死に生きようともがいて生きる道を探していたんだろう。


だけど、本当はずっと誰かに頼りたくて縋りたくて、甘えたくて仕方なかったんだろう?」





「もう…何も聞きたくないよ…」




「もう、自分を解放してあげなよ。


ずっと怒りも悲しみも誰にもぶつけられずに抱えて生きてきたんだろう。


何も気にせず、全部包み隠さずに俺に話せばいい。


もう、何も我慢なんてすることない。思っていること感情全て俺にぶつけてくれればいいから。」



汐帆が汐帆なりに必死になって生きて行く道を模索していたように。



今まで、誰にも頼れず甘えられなかった分俺は汐帆の全てを受け入れたい。



この手で、この小さい身体を守りたい。




もう、これ以上何も聞きたくないのか、汐帆は俺の腕の中で首を横に振っている。



「もう……本当にやめて…」




段々と弱々しくなる汐帆の声。



その切ない声に胸が締め付けられる。



「俺が汐帆の全部を受け止めてやる

俺は汐帆を絶対裏切ったり、一人になんかさせない。

守るから…俺の全部をかけて汐帆を守ってみせる。

だから……」




汐帆を想う感情が込み上げてきて、汐帆を抱きしめる腕が強くなる。



「だから、安心して着いてこい。


何も考えず俺のそばにいてくれればいいから。


俺が…人の温もりを教えてやる。」



小さい子供をあやす様に、汐帆の頭を優しく撫でる。



俺の言葉に、汐帆はシャツを掴む力が強くなる。




汐帆の体温は次第に上がり、とめどなく涙が溢れ出ていた。



俺の胸の中で泣きじゃくる汐帆を何度も何度も背中を撫でていた。