俺は、新しく担当をする患者さんに会うために彼女の高校に来て校長先生を通し担任から呼んでもらうように頼んだ。



正直、ここの高校の名称をみて驚いた。



偏差値が高く、毎年名門大学に何人もの現役合格者を出している高校で、その人気からも倍率がかなり高い。



意外だな…。




それに、ここの高校は俺の妹である咲月(さつき)がここの養護教諭として働いている。



俺は、校長先生から保健室に案内され、彼女に会うためにここで診察の準備しながら彼女がここに来るのを待った。




それから、10分もしない間に彼女はここへ来てくれた。



コンコン



「はい。」



「失礼します。」



震える手で、保健室の扉を開き彼女は俺の前に座った。



かなり警戒されているな。




無理もない。初めて見る大人に警戒心を抱かない奴なんていないだろう。


ん!?


彼女のカルテから彼女の表情を見るために顔をあげると、少女とふと目があった。



彼女と視線が合い、高鳴る心臓の鼓動に胸が締め付けられた。



高校生とは思えないほど大人っぽくて、吸い込まれそうなくらい綺麗で潤んだ瞳。



顔全体が整っていて美人すぎるほど。



真っ直ぐ見つめられる視線に、思わず理性を飛ばされそうで怖かった。



でも、容姿だけじゃない。




いくら容姿が綺麗でも、華奢で可憐さを持っていたとしても俺の心はここまで動いたりはしない。



大きな瞳からは深い悲しみや苦しみが痛いほど伝わってきた。



まるで、この世の全ての物を否定するかのような瞳。



誰も寄せつけない冷たい瞳をしていた。



だけど、その瞳からはどこか人の愛情や温かさを求めているかのようにも思えて、放っておいてはいけない気がした。




彼女のもつ、独特な雰囲気が俺の心をかき乱した。




人を信用していない視線、容姿、雰囲気から




彼女の抱える不安から、彼女の抱える闇から救い守りたいと感じた。



「山城先生から、担当医が変わったことは以前の退院の日に聞かされたと思うんだ。


新しく担当になる、佐々木知紘です。


今日は、肺の音と胸の音だけ聞きに来たんだけどいいかな。」



俺がそう言うと、汐帆ちゃんは頷いた。



俺は、少しためらったが制服の下から聴診器を当てた。



ドクン!



落ち着けよ…冷静になれ。



本当、どうしちゃったんだよ。



こんなのらしくない。



今は、彼女の診察に集中するんだ。



「喘鳴もあるし、体も熱いから吸入と点滴をした方がいいと思いますけどどうしますか?」



「いや、大丈夫です。」



大丈夫なわけないだろう。



熱も結構あるだろうしな…。



「だけど、苦しくないですか?」



「平気です。」



「でも…」



「すみません。授業、始まっちゃうんで教室戻ります。」



そうは言ったもののやっぱり放っておけない。



背を向けた彼女に、俺は急いで汐帆の手首をつかみ彼女の動きを止めた。


「離して!」



想像以上に、驚き怯える汐帆。



やべえ…これじゃ病気も関係も悪化するだけだ。



すかさず手を離し言葉を付け足した。




「今のままだといつ発作で倒れるか分からないよ?」



「別に。あなたに関係ない。」



そう言うと、汐帆ちゃんは保健室から出て行ってしまった。



この後のことは、医者でなくても分かる。



明らかに悪化はしているだろう。



俺は、結局その後汐帆に会うことはできず病院に戻った。



それからというものの、俺は何1つ仕事が手につかなかった。



汐帆のことがずっと頭から離れなかった。