とある賢者の執着愛ーー貴女を他の誰かに取られるくらいなら



 オリヴィアが私室に軟禁され、三日ほど経った頃。屋敷に向かっていた魔女が姿を消したという報せが飛び込んでくる。

「ダイヤモンドの呪いだ、そうに違いない! 賢者様にオリヴィアを捧げるのを戸惑ったから、あぁ! ああぁ!」

 窓辺で庭の様子を眺めていたオリヴィアは父の悲鳴に息を吐く。

「オリヴィア! オリヴィア!」

 階段を駆け上がる音がして、立ち上がる。父を慰める準備は出来ていた。

 ブラッドリー家が魔女を招き、呪いを解こうとする噂は隣国まで及ぶ。先日、王子から助力を申し出る旨の便りが届き、魔女はそれを知ったのであろう。

「オリヴィア! オリヴィア!」

「はいはい、聞こえてますよ」

 錯乱状態の父親をオリヴィアはすぐさま抱き締める。

「可哀想な、お父様。安心して? あれは悪い魔女だったの。ブラッドリー家の足元を見て、お金を騙し取ろうとしていた。だから王子が関わると知るや、姿を消したんだわ」

 その証拠にブラッドリー家には怪しげな者達から売り込みが絶えない。自分は呪いを打ち消せる、跳ね返す、奇跡を起こすなどとオリヴィアの父親を惑わすのだ。

「このままではブラッドリー家、いや、お前が……」

「私なら平気、大丈夫! ほら、ご覧になって? お肉もお魚を控えたお陰かしら、肌の調子がとてもいいのよ」

 それは庭いじりをしない影響とも言えるが、オリヴィアは笑顔を作る。

「あぁ、お前は心まで美しいな」

 父親はオリヴィアの頬へ触れ、愛しい形を確かめた。
 ブラッドリー家の繁栄はもちろん重要であるが、大切な一人娘を賢者へ嫁がせる為に育ててきた訳じゃない。それも何百年前に亡くなった賢者に、だ。
 父はオリヴィアが不憫でならない。