とある賢者の執着愛ーー貴女を他の誰かに取られるくらいなら

 黒髪と黒い瞳、この国では珍しい。何処かミステリアスな影を感じさせる容姿にオリヴィアは息を飲む。ジョシュアを美しいと思う。

「私はお嬢様を困難から逃げ出すようにお育てしていません。お嬢様は常に前をみ、背筋を伸ばし、茨の道であろうと進むはず」

 仮定の話などしないジョシュア。きっぱり言い切る。

「ふーん、ジョシュアの中の私は随分と勇ましいのね。素手で熊を倒しそうだわ」

 彼ならそう答えるだろうと踏んでいても、実に退屈な返事であった。オリヴィアは口を尖らす。

「いいえ、お嬢様の手は汚させません。お嬢様の行く手を阻む障害の除去は私にお任せを。
 さしあたって、隣国の王子へ刃を突き立てましょうか? 彼にはお嬢様を傷付けた罰を与えるべきです。私が全身全霊をかけお育てしたお嬢様を振るなんて万死に値します」

「ーー貴方」

 見開く、オリヴィア。

「ふふ、なんて恐ろしい冗談を言うのよ。ジョシュアらしくないわ」

 そして笑った。

「ジョシュア、ありがとう」

 それからジョシュアの手を取り、語り掛けた。

「私は王子を憎んでいないし、婚約破棄されても恨んでいない。それよりも貴方が心配だわ。早く可愛らしいお嫁さんを迎えなさい。私はジョシュアを一人にしてしまうのが怖いの。だって貴方はとっても仕事熱心だから」

「お嬢様……私はこの先どうすれば……」

 残念ながらジョシュアを伴って修道院へは行けない。  

「もう! そんな迷子みたいな顔をしないで? 私はジョシュアの幸せを願っている」

 オリヴィアは椅子から降りて、ジョシュアをそっと抱き寄せた。

「幸せになるのよ、ジョシュア」

 彼女は祈りを込めて呟く。その気持ちに反応したダイヤモンドが更に曇り、抱いている教育係をも曇らせるとは知る由もない。