とある賢者の執着愛ーー貴女を他の誰かに取られるくらいなら

「このダイヤモンドは宝石としての価値はそれ程無いの」

 大きさこそあるが透明度は低く、傷だらけで装飾品に向いてるとは言い難い。
 オリヴィアはアーモンド形にカットされたそれを掲げ、ジョシュアへ重ねる。

 左目を髪を流して隠しているジョシュアは弱視であった。本人いわく、ほとんど見えていないそう。

 弱視であるのが周囲に知れたら執事や教育係の任を解かれるのではないか、彼はひた隠しにするもオリヴィアの瞳を誤魔化せなかった。

「修道院に行く前に貴方の左目を見つけなきゃね。ねぇ、どんな娘が好みなの?」

「……必要ないです。お嬢様が鋭いだけで、他の人間は私の左目が見えていないなど気付いていませんから」

「でも、ジョシュアもそろそろ家庭を持つ頃合いよ。貴方に憧れる娘も沢山いるのに。私が良い子を紹介してあげる」

 と言いつつ、オリヴィアはジョシュアの年齢を正確に把握していない。なんならジョシュアはオリヴィアが幼い頃から容姿が変わっていない気もする。
 ジョシュアは年齢不詳なのだ。

「ですから興味がないのです。結婚も恋愛にも。私はお嬢様の成長こそが生き甲斐で、唯一の誇りなんですよ」

 ジョシュアはオリヴィアの足元へ躓く。騎士が主に忠誠を誓うように。
 そんなジョシュアを眺めていると、ふと、我が儘を思い付く。

「ねぇ、ジョシュア。貴方の生き甲斐がもしも、もしもよ? ここから連れて逃げてとお願いしたらどうする?」

 問い掛けにジョシュアは顔を上げた。