とある賢者の執着愛ーー貴女を他の誰かに取られるくらいなら



「賢者様の次は魔女だなんて。はぁ、お父様には良いお医者様と休息が必要よ」

 オリヴィアは嘆かずにいられない。父の命により、私室に数日間軟禁されるのだ。
 ブラッドリー家の当主はオリヴィアだが全権は父親にあり、ジョシュアも逆らえない。

「旦那様はお嬢様が心配なのです。責めてはいけません」

「あら、あなたもお父様の味方? ダイヤモンドの祝福やら呪いを信じているの?」

「……それでもブラッドリー家が繁栄してきたのは事実でしょう」

 ジョシュアは言葉を濁し、肯定とも否定とも取れる返しをする。確かに彼の言う通り、ブラッドリー家は激動の世において安寧が保たれ、まるで目に見えない加護を受けているかのよう。

 こうして温かい食事を用意して貰える毎日は幸運だ。当たり前ではない。

「肉や魚を暫くの間は控えるようにと旦那様から申しつかっております。毒素を出し切った後は森の泉で身体を清めて頂きます」

「ーーあっそ。こんな寒い時期にお清めなんて、しんどそう。はい、頂きます」

 野菜中心の夕食に文句はつけず、オリヴィアは食べ始めた。いつもは家族で食卓を囲うが、今はお互いの為にも離れた方がいいだろう。

「お嬢様は隣国の王子と結婚したかったのですか?」

「いいえ、全然。面識もなければ興味も無かったわ。だけど……」

「だけど?」

「この地を離れられるのだけは魅力的ではあったかも。ダイヤモンドだの、賢者様だの言われなくていいし」

 オリヴィアは目を瞑る。シャキシャキと咀嚼音を楽しみ、家庭菜園の様子を目蓋の裏へ映す。
 土いじりなど令嬢がする事ではないと叱られるが、オリヴィアは自然と触れ合うのがどうしてもやめられなくて。