背後は泉、逃げ場はない。

「はは、他人とは冷たいじゃないか。直に夫婦になるんだ。見せてくれてもいいじゃなか!」

 抵抗の余地なく布を剥がされ、押し倒されてしまう。一度は自害すら過った身であるが、愛してもいない男に弄ばれるとなれば心を殺されるようなもの。本能で王子を引っ掻き、距離をとろうとした。

「暴れるんじゃない! 遅かれ早かれだろ!」

 王子はオリヴィアを難なく制し、意地悪く微笑む。品性の欠片もない表情にオリヴィアは絶望を隠せずいると、顎を掴まれた。

「生意気な女は嫌いだ。君は黙って大人しく笑っていればいい。不自由はさせないし、身の安全も保証しよう」

「この状況で言われましても……信用できません」

「だったら実家に帰るか? この国も君の国も婚約で大層盛り上がっているのに、引き返せる? さぞ、お義父様は嘆かれるだろうな」

 王子はオリヴィアの急所を的確に把握しており、オリヴィアを思いのまま操りたい。婚約を一旦破棄したのも彼が描く脚本で、身勝手な夫婦生活の筋書きは緻密に練られている。

「あぁ、君が美しい姫君で良かったよ。左目が不気味なのは減点だけど」

 護衛が王子の悪癖を承知していない訳がなく、ここでオリヴィアが泣き叫ぼうと聞こえない振りをされるだろう。

 頬をねっとり撫でられつつ、オリヴィアは唇を噛む。生まれたままの姿を見られ、屈辱的だ。