とある賢者の執着愛ーー貴女を他の誰かに取られるくらいなら

「私の心が美しいとすれば、それはお父様やお母様が愛してくれたからでしょう」

 オリヴィアは本当に心から思っており、更にジョシュアにも感謝をしている。

 父の背中を撫でつつ、胸に手を当ててオリヴィアは覚悟を決めた。

「お父様、私、賢者様へ嫁ぎます。この魂を捧げれば賢者様は引き続き、ブラッドリーを守護して下さるーー」

「お嬢様! それはいけません!」

 誰よりも早く異を唱えたのはジョシュア。彼は収穫したばかりの野菜を抱えたまま、オリヴィアへ訴える。

「お嬢様を犠牲にしてまで、この家を永らえさせる価値などあるのでしょうか? 貴女がいないブラッドリーなど意味がない!」

 死者に嫁ぐとは、すなわち贄となる事。

 オリヴィアが修道院へ行こうと両親はダイヤモンドの呪いに怯え暮らして行かねばならない。であればーー彼女が導き出したのは自己犠牲だ。オリヴィアが居なくなれば呪いも消える。

「ジョシュア! 貴様!」

 この家呼ばわりされた上、無価値と罵られた父親が激昂する。殴り掛かろうとする腕にオリヴィアは縋った。

「お父様、やめて! ジョシュアは私を想って言ってくれただけよ」

「使用人上がりがオリヴィアを想うなど穢らわしい! 娘がどうしてもと懇願するから置いてやっていたのに、この薄汚いネズミめ! 思い上がりも甚だしいぞ!」

 怒りのまま振る舞い、オリヴィアを突き飛ばしてしまう。華奢な彼女は床へ叩き付けられ、ジョシュアが慌てて駆け付けようとした。

 ーーが、父親はそれを阻む。

 ジョシュアの左顔面を思い切り叩き、よろついたところで頭から野菜を降らせたのだ。

 まだ泥がついたままの人参、ジャガイモがジョシュアのシャツを黒く汚し、やりとりを固唾を飲んで見守っていた周辺からクスクス笑い声が生まれる。