翌朝、今日も会えないかなって、思いながらエレベーターで1階に降りる。せめて、見かけるだけでも出来たら嬉しいなぁ。自分から話しかけるなんて、出来ないし…。







寮を出ると、人だかりが出来ていた。何でだろ…。女子生徒がいっぱい。





ふと、その目線の先を見る。






あっ!赤羽先輩だ!…が、フェンスによりかかってスマホを見ている。




朝から見られてラッキー!これで今日は幸せな日になった。




「かっこいい。けど…通れない」
「こっ、こわいよね」





あっ、そういう事か…。






先輩がカッコよくてつい見とれちゃうけど、それ以上に怖い印象があるから身動きがとれない、みたいな。



そのとき、ちょうど男子生徒が出てきて先輩の前を通り去った。




それを見た女子たちがぎこちない1歩を踏み出しながら先輩の前を通る。私もそれに続く。






「あっ。」





先輩が声をあげ、ビクってなる女子たち。(私も)





「横川」





私!?嬉しいけど、ビックリしてる。ど、どうしたのかな?




「先輩、おはようございます」





できるだけ先輩の中で横川美空っていう存在が好印象でいて欲しいから笑顔で挨拶をする。





「はよ。連絡先教えて」




と、スマホを向けられる。私も慌ててスマホを取り出す。




「あっ、はい」



QRコードを読み取って交換完了



"弾"という文字と先輩の耳元のピアスのアイコンが表示された。



「ありがと。じゃ」



そう言って先々歩いて行った。



えっ交換したんだよね?本当に?




朝から会えて話せただけでも凄く嬉しいのに、その上連絡先を交換してくれた。うわあ、すごく幸せ。







「美空!さっき噂になってたよ!昨日のこと本当だったんだね」
「それ!1年の子と赤羽弾が連絡先交換してたって、女子が騒いでた。」





私よりも後に学校に着いた井野羽音(いのはおと)と西善奈琴(さいぜんなこ)に囲まれた。2人とは同じクラスで仲良くなった。昨日のことを電話で話していた。



「2人とも…おはよう」



「「おはよう!」」と笑顔で返してくれる。



「良かったじゃん!だいぶ距離縮まって」
「そうだよ」



うれしい。




「あの赤羽先輩がこんな人だとは思わなかった」
「寮の部屋とか、連絡先とか…。普通、教えないでしょ」





そう、だよね?私もそう思った。みんなが知らない1面を知れて凄く嬉しい。期待したらダメなのは分かっているけど、どうしても他の子に対する態度と私に対する態度は違うって思ってしまう。…これが恋するっていうことなのかな。









-昼休み



羽音と奈琴がお弁当を食べるために私の席に集まった。私の席は、窓際で2人ともこの席を気に入っている。もちろん、私もだけど。





「食べよ、食べよー!恋バナしよ!」
「いいね!ウチらのも聞いて!」



2人ともハイテンションで、つい笑ってしまった。

3

人とも高校で出会ったけど、こんなにも仲良しなの。





「じゃあ、私からね。好きな人がいるの。1年2組の竹山想矢(たけやまそうや)っていう幼なじみで…。小さい頃から一緒にいたんだけど、好きだと気づいたのは最近なんだぁ。」




と、羽音が打ち明けた。



そうなんだ。幼なじみとの恋!凄く素敵だ





「付き合ってはないんだけど、お互い意識してるみたいな…そんな感じ」




聞いてるこっちがドキドキするんだけど…。





「まだまだ聞いて欲しいことあるけど、それは今度の林間学校の時に話そっかなって。」





そっか。もうちょっとしたら1年生だけの林間学校がある。1泊するんだあ。その班が私たち3人一緒なの。



恋バナ聞けるの楽しみだなあ。




と、そのとき





"ガラガラ"





と勢いよく教室のドアが開いた。



反射的にみんな、そっちを見る。







…なんで。先輩がいるの?





目が合って、こっちに歩いてくる。みんなの視線もついてくる。




「メッセージ送ったんだけど」




慌てて確認すると着信が入っていた。





"今日の昼、昨日のベンチに来れる?"





きっ、気づかなかった…。





「すみません、スマホ見てなかったです」
「そっか、友達と食べてんの?」
「え?はい、そうです」





クラス中の視線が突き刺さって思うように話せない。





「ね、横川借りていい?」




と、奈琴と羽音の方を見る先輩。




「あっえ、はい。どーぞ」
「美空、また続き話すから」






と笑顔で背中を押された。先々進む先輩に置いていかれないように慌てて弁当を掴んで追いかける。











-数分後、ベンチについて腰をかける。




「友達との時間、邪魔してごめん」




もちろん、びっくりしたけど、先輩からの誘いは嫌ではなかった。





「大丈夫ですよ。でも、どうしたんですか?」
「ただ単に横川と話したくなって。昨日、あんなに誰かと話したのが久しぶりだったから。しょうもない理由で友達との時間、奪ってごめん」
「謝らないでください!私も楽しかったからまた、話したいなって思ってました」
「ありがとう。じゃあ、食べながら話そっか」




私はうなづいて、弁当を広げる。横を見ると先輩も弁当を広げ出した。先輩も弁当なんだぁ。寮生活だから、自分で作ってるんだよね…?しかも、凄く美味しそう!料理上手なんだ。また、新しいことを知れた。




「先輩のお弁当、美味しそうですね!」
「そう?作れるものに限りがあるから、毎日似た弁当になっちゃうんだけどね。…横川の方がバランスも良いし、美味しそうだよ」
「ありがとうございます!」





好きな人に褒められて喜ばない人はいない。
嬉しすぎる。





「聞こうと思ってたんだけど、"みそら"って、漢字どう書くの?メッセの名前、平仮名だったから気になって。そもそも平仮名?」





唐突に名前を呼ばれ、ドキッとした。





分かってる、名前の漢字について聞かれてることぐらい。でも、うれしいんだ。





「美しい空って書きます!」
「あ〜、だからアイコン空なんだ」




覚えててくれてたんだ。





「そうです、名前のおかげで空が好きなです」
「いい名前だね」





いつか、先輩に「美空」って、呼ばれてみたいなぁ。






「私も聞きたいんですけど、ピアス痛くないんですか?」
「初めて開けたときは少し痛かったけど、今は全然。」





私は怖くて開けれないなぁ。それにイヤリングで十分だと思うから。でも、ピアスかっこいい。





「次、オレ。兄弟いる?」
「いますよ、3つ上のお兄ちゃんが」
「へー、ちなみにオレは一人っ子」




先輩も男兄弟がいそうに見えたから少し驚いた。





「誕生日いつですか?」






「いつに見える?」





質問に質問で応えてきた先輩につい、笑ってしまった。


いつだろ…






「1月、ですか?」
「残念、12月」





ちょっと惜しい。





「12月の25日だよ」




クリスマスなんだぁ。





「逆に私はいつだと思いますか?」
「6月でしょ」
「えっ、正解です!!6月25日です」





当てられてびっくりしたけど、それよりも…






「ちょうど半年違いですね」
「確かに」





これが何かの運命だったらいいのにな…。





「先輩は、恋したことありますか?」






あっ、つい、聞いちゃった。





「変なこと聞いてすみません」
「うーん、あるけど。付き合ったことはない」





そうなんだ…。





「先輩って、凄くモテるから付き合ったことがあるのかと思いました。」
「モテてないよ。好奇な目で見られてるだけ。それに、モテてたとしても中途半端な気持ちで付き合うなんて、出来ないでしょ」





…凄くわかる。






私もたまに告白されるけど、好きでも無いのに付き合うのはダメだし、でも、相手の気持ちも嬉しいからなんて答えたらいいのか、正直分からない。






「横川は、恋、してるの?」





「…してます」




その相手は先輩です!



なんて、言えたらいいのになぁ。







「オレも今いるよ、好きな人」






えっ…。そうなんだ…。





「そ、そうなんですね。応援してます」







「応援しないで」







それって…どういう?









「まどろっこしいの嫌いだから言うけど…横川が好き」






はっ?えっ?







本当の本当に?





「好きじゃなかったら、わざわざ待ち伏せして、連絡先聞いたり、教室まで行って友達との時間を邪魔したりしない」





先輩が私のこと好きなんて、、信じられないけど、私の事を想ってくれてるんだって伝わってくる







「横川に好きな人がいるの、凄く嫌。けど、邪魔しないから。オレのこと、今すぐ振って。そしたら、オレもあまり傷つかずにこの気持ちを忘れられるから」




凄く苦しそうな顔をしてそう言った先輩。






「私だって、好きじゃなかったら、呼び出されても着いて行きません!」






もろ告白。