私がいつもこの十両目の端っこで、この時間に乗っていている理由。

それは、名前も知らない他校の彼が乗っているから。

今日も、貫通扉の前にいる彼は、端っこの吊り革を持って、紺色のカバーを被せた本を読んでいる。

私と目があったからか、本を閉じて前で背負ったリュックの中に入れた。

「おはよう」

彼の美しい輪郭が、言葉を発すると同時に動く。

朝の光を浴びて、黒い髪が少し茶色く見えるのと、半袖から伸びた腕がよりしなやかに見えるのが、なんだか新鮮で見惚れてしまった。

「おはようございます」

私はぺこっと頭を下げる。

「今日は天気がいいですね」

そんなたわいもない会話をしながらいつもこの時間を過ごす。

そんな関係になったのは、高校に入学して最初の登校日だった。