婚約解消直前の哀しい令嬢は、開かずの小箱を手に入れた

 やがて、まぶたの裏側に光を感じて。
 夢は途切れて、エレオノーラは意識を取り戻した。

(……思い出した。私、なぜ忘れていたの……?)

 大好きなルドヴィックを突き飛ばしてキスを拒否した思い出なんて、忘れようにも忘れられないはずだ。
 けれど、エレオノーラの記憶からはあの事件だけがきれいさっぱり消え去っていた。
  
 そしてルドヴィックの様子がおかしくなったのは、あの頃からだ。こちらから話しかけても素っ気ない反応しか返ってこなくなり、会う回数も激減し、次第に距離ができて――
  
「目が覚めたか」

 頭上から、優しい声が聞こえた。
 その声に薄く目を開けると、視界に入ってきたのは間近に迫るルドヴィックの顔だった。

「ち……近!」
「よかった……急に意識を失ったから急いで医師を呼んだところだ」

 彼は安堵の表情を浮かべ、エレオノーラをきつく抱きしめた。エレオノーラは気を失っていた間、ルドヴィックの膝に抱えられていたらしい。

「申し訳ありません! 今、降ります!」
「何を言う、無茶をするな。しばらくこうしているといい」

 むしろ、ずっとこのままで。
 低い声が、耳元でそう囁く。あまりの甘さにまた意識を失いそうになったが、エレオノーラはギリギリのところで持ちこたえた。

 そして混乱する頭を、どうにかこうにか落ち着かせる。
 なんとなく見当がついたのだ。
 小箱が開いて、記憶を取り戻して……なぜこのようなことになっているのかを。

 ドラコニア王家の紋章が刻まれた小箱は、なにやら魔術で封印されていたのだが。
 小箱を城に持ち込んだ途端に様子が変わったルドヴィックと、彼の感情と同調するように熱を帯びた小箱。自ら蓋を開けたその箱は、彼が近付くことによって封印が解かれたようにも思えた。
 となると、この箱は――