「湊にいちゃんって、彼女いるの?」
「……いや、別れて今はいないけど。いきなりどうしたの?」
「別れた……ってことは、いたの?」
「う、うん。付き合ったことはあるよ」

「あのね、叶和くんともこの前話してたんだけど、恋をしたらどんな気持ちになるのかな?って思ったの」
「恋をしたら、か……亜結奈ちゃんは、まだ好きな人出来たことないの?」
「うん、ない」
「そうなんだ……。亜結奈ちゃん、勉強以外のことも教えてあげよっか?」

 そう小声で言いながら顔をちょっと近づけてくる湊にいちゃん。

「勉強以外のこと?」
「うん、亜結奈ちゃん。試しに俺と付き合ってみる?」

「えっ?」

 湊にいちゃんは微笑みながら私を見つめてくる。

 その言葉の後に見つめられたからか、なんだか胸の奥辺りがドキッとした気がした。

 湊にいちゃんは何を言っているの?
 突然そんな言葉を言われたけれど、なんて返事すればいいんだろう。

 動揺していると、バタンと強く教科書を閉じる音がした。音の方向を向くと、何故か叶和くんがムッとした表情で湊にいちゃんをにらんでいた。