『ーーーをーーーて』

耳に馴染んだ歌声が、頭から爪先へと駆け巡っていく。

私はレトロなバスを降りながら、吐息で歌を口ずさんだ。


「うわぁ…すごい。」

目の前に広がる光景に、思わず声が漏れた。

港町、その景色を見た瞬間、そんな言葉が頭に浮かんだ。

どこを見ても、目に映るのは自然の緑と海の青だけ。

正面にはこぢんまりとした古い建物が建ち並び、バス停を越えた先には膨大な海が広がっていた。

そして、それら全てを取り囲むように、大きな山が広がっている。


ーープシュゥゥゥ


レトロなバスはそんな音をたてると、私を置いて同じような景色を走って行ってしまった。

急に静かになって、何だか世界に一人だけ取り残されたような感覚に陥る。


私は落ち着かない気分のまま古いバス停のベンチに腰をおろし、重たい荷物もそこに置いた。


私がわざわざ電車とバスを乗り継いでここまで来たのは、夏休み中である今日から、従兄の家に引っ越すことになったからだ。

『気晴らしのためにも、新しい土地に移ってみたらどう?』