「――キスしてみませんか? 先輩」

「……へ?」

――秋が去り、冬が訪れようとするそんな時期のとある日の放課後。

ブラリブラブラ、俺は体育館の裏に呼び出されて、人生で初めて()()というものをいきなりされた。

だが、いまいちピンとこなかった。

キスだって?

キスって、あれだよな?

唇と唇を重ねてする、あの「キス」。

ドラマとかでかっこいいイケメン俳優と女優さんがする……アレ。

ハハッ、ないない。

年齢=彼女いない歴の俺が、そんな難易度MAXな事……。

「聞こえなかったんですか? キスですよ。キ・ス。私と先輩で、大サービスですよ、こんなの! 交際はそれから考えていいです」

「冗談だろ?」

目の前にいる女の子に、問いかける。

心臓がバクバクして破裂しそうだ。

この瞬間さえも、まだ信じられない。

きっと、そうだ。

このツインテールの髪型に、膝が丸々見えるほど短いスカートを履いた人懐っこい顔をした一個下の可愛らしい後輩は、今俺を弄んでからかっている。

でなければ俺とキスなんかしようなんて、天地がひっくり返っても起きない事を言うはずがない。

騙されないぞ。

恋愛経験に乏しい俺は、彼女から距離をとるように一歩後退した。

が、それを打ち消すように、俺が距離をとった分だけ――そんな事屁でもないと言わんばかりに、身を寄せ、身長差を存分に生かして、あざとく、上目遣いで、

「ええ、本気ですよ。本気! どうなんですか? するんですか? しないんですか?」

「……し、しないに決まってるだろ!」
 
なんだ、この子は。

なんで、この子は俺と喋ったことも無いのにこんなにグイグイくるんだ?

コミュ力の塊か?

それとも他の男子にもこういう事言っていて、慣れているのか?

……するわけないだろ。

「……意気地なし」

「い、意気地なしってな……す、好きでもない人とキスなんかするわけないだろ…いいから離れろよ。俺には……」

肩を落とされても、俺の意思は固い。

なぜなら俺は――

だが、その後を言おうとする前に、俺に不敵ににやっと笑って、被せて――

「先輩には好きな人がいるんですよね? みどり先輩。でも、それって一度断られましたよね? なんで、まだ引きずってるんですか? 諦めて次の恋――そう『私』と恋をしましょう!」