新橋イチローと、堀之内まりやは、特急なんば行きに、堺駅から乗った。
 そうだ、と新橋イチローは、思った。
 南海本線も、『鉄道唱歌』が、あったっけ、と思った。
 妹は、作業療法士になった。
 京都府宇治市の病院で仕事をしている。
 旦那も、作業療法士になっている。
 息子がいる。
 高校生になっている。
 今日は、夕方の空が綺麗だ。
 2024年3月14日は、綺麗な夕方の空と思った。
 新橋イチローは、手すりにつかまって、横には、まりやもいた。
 いつの間にか、イチローは、まりやと一緒にいた。
 今日の海は、綺麗だ。
 工場からは煙があるけど、東へ流れていく。
 阪神高速道路湾岸線が走っている。
 海は、どこへつながるのか、と思った。 
 電車は、大和川を越えた。
 緑が綺麗だった。
「まりやさん」
「はい」
「英語上手ですね。
「私、10代の時、アメリカに住んでいたのです」
「どこ?」
「アトランタに住んでいた」
「湖のあるところ?」
「はい」
「どうして、短歌を習おうと思ったの?」
「短歌が、好きだったから」
 と言った。
 新橋イチローは、大阪に住んでいたが、社会不適合で、いつも、「アメリカに行きたい」と、10代の時は思っていたが、駄目だった。英語の成績は良かったが、ある時、英語で「結婚したくない」と言って、女子に無視された。
 だが、目の前の彼女は、まりやは、そんな感じには見えなかった。
 しかし、新橋イチローでも、帰国子女が、日本のような村社会でなじむのは、大変だとは知っている。
「今日の予定を変更する」
 とまりやは、言った。
 LINEで「今日は、会えないから」とまりやは、友人に言った。
 そして、まりやは、「私も、なんばまで行くから」と言った。
その時だった。
「まりや」
「はい」
「今日さ」
「はい」
「天下茶屋から地下鉄に乗って、日本橋まで行こうよ」
「え?」
「そこで、美味しいお寿司屋さんがあるんだ」
「ホンマに?」
「オレ。酒は飲めないけどさ、一緒に、マグロ丼食べようぜ」
「良いの?」
「うん」
 イチローとまりやは、大阪日本橋のお寿司屋さんで、マグロ丼を食べたらしい。その日のマグロ丼は、イチローが、ごちそうしたらしい。それが、新橋イチローの堀之内まりやへのホワイトデーのプレゼントになった。
 それは、2024年3月14日だったらしい。
 その日以降、新橋イチローとまりやは、付き合ったらしい。そして、夫婦になった。新橋イチローの『新・東海道中膝栗毛』は、まりやが、翻訳して、少しだけ、アメリカやイギリスで売れたらしい。<完>