優と知り合ってしばらくたったある日の、午後のこと。

「結愛ってさ誰かと付き合ったことある?」

と優は、言った。

「ん〜あるけど、なんで?」

と私が言うと、
優は優しく微笑んで

「じゃあさ、俺と付き合ってくれない?」

と言った。
急にそんなことを言われ、私は思わず赤くなった頬を隠すため

「ああぁ、よ用事があるの、わわすれてた〜」

とバタバタと階段を駆け下り部屋へと走っていった。走りながらさっきの行動に後悔した。これじゃあまるで照れてるみたいじゃないの‼
その日の夜、私はなかなか寝ることができなかった。だって急に優に付き合ってほしいと言われたからだ。学校にいた頃は結構こういうことがあったけれど、他の人に言われたときとは、少し違ったくすぐったいような気持ちになった。他の人たちに言われたときは、特に何も思わなかったのに…これも病気のせいなのかな。そう考えるとやっぱり少し怖い。でも、病気のことを気にしても何も変わらないんだから、とりあえず眠ろうと深く布団を被った。

朝起きると、一番に満面の笑みを浮かべた佐倉さんが、目に入った。

「ん、もう朝?」

入院してからはいつも早く起きていたのに今日は昨日のことのせいで寝坊してしまった。

「もう朝よ。結愛ちゃんったら優くんのことが大好きなのね」

と佐倉さんはからかうように言った。どういうこと?と首を傾げていると、

「寝ながら、優って何度もつぶやいていたのよ」

と笑いながら佐倉さんは言った。

「ちっちがうし、そんなんじゃないし!!」

と慌てて言うが佐倉さんには

「じゃあそういうことにしておいてあげる」

と言われた。完全に誤解された…もう、優の奴め。夢にまで出てくるなんて。私はムカついたので、昨日の仕返しとして屋上へは行かなかった。まぁいつも約束しているわけではないけど。すると私の気持ちを見透かしているかのように代わりに優が部屋までやってきた。

「昨日はどうしたの?もしかして、照れてたの?」

と私をからかいながら部屋に入ってきた。

「そんなんじゃないし、用事があるの忘れてて焦っただけだし」

と私は少し怒りながら言った。
すると優は、笑いながら

「はいはい、では、コントはここまでにして本題に入るけど」

と言った。

「コントじゃないし‼てか、私のことからかいに来たんじゃないの?」

と私は素早く突っ込み、頬をふくらませる。優は元々私の話を聞くつもりはないらしい。

「はは、からかうつもりなんてないよ。人聞きの悪い。でね本題は、1日だけでいいから俺と付き合っている『ふり』をしてほしいんだ」

と、真剣そうに優が言った。

「えっなんで?」

と怒っていることも忘れ首を傾げる私に

「実は、この前俺の幼なじみがお見舞いに来てくれたんだ。けど俺の幼なじみには病気のこと詳しく言ってないんだよね。だから最近入院しちゃって怪しまれてて、だったら彼女を連れて行くから、ダブルデートをしようって俺が言ったんだ」

と名案でしょとばかりに堂々と胸を張り優は言った。幼なじみに病気のことを知られたくないのはわかる。だって私も、小春と芽生に、寿命のことを言っていない。というか誰にもこのことは、話していない。言葉にしてしまえば、現実になるようで怖い。

「…あ、結愛‼どうしたの?大丈夫?」

優の言葉ではっと我に返る、どうやら考え事をしているうちに固まってしまったらしい。

「ちょっと考え事してただけ、大丈夫だよ」

というと、優は、

「でさ、付き合っているふり、してくれる?」

と、少し上目遣いで尋ねてきた。ず、ずるい、でも負けてなるもんか。

「まずなんで、疑いを晴らすためにダブルデートなのよ」

と呆れたように私は言う。すると、優は

「えっだって、デートに行けるってなったら元気なんだなーって思うし、彼女がいるってわかったら、なんか安心するじゃん」

と言った。

「いやいや、なんでそうなるのよ。そんなんでごまかせるわけないじゃんていうかなんで私なの?私じゃなくてもいいでしょ」

という私に、優は尋ねる

「じゃあどうしたらいいの?」

「わかんないけど、とりあえず他の人にでも頼んだらいいじゃん!私はやらないからね」

と私も負けじと返す。でも

「え〜俺の愛の告白に照れてたくせに??」

と勝ち誇った顔で言われ

「そっそれは、」

とたじろいでしまう。それを見逃さずに優は、

「じゃあ、今週の土曜日ね、外出許可取っといてね〜」

と言い残して優は、出ていってしまった。あ〜もう‼私は、優の思惑にまんまとのせられてしまったのだった