朝起きて私は一番に窓を見る。これが最近の日課だ、そしていつもと同じようにため息をつく。

「はぁ〜またか…」

と思わず、誰もいない静かで寒い病室にひとりごちる。でも誰かが返事をしてくれるわけもなくそんなことをしているのがバカらしくなって私は、硬い病院のベットに顔をうずめる。

最近まで私は、ごく当たり前のどこにでもいる高校2年生だった。でも1つだけ他の人と違うところがある、それは心臓病を患っていることだ。生まれた時から私の心臓は弱くて、産まれて直ぐに集中治療室に移され、それから首が座る頃までずっと入院していたらしい。

その後は、発作を起こすこともなく平和に過ごしていたのだけど、中学2年生の春、私は発作を起こし病院に救急搬送された。
その時は、大した事はないといわれすぐに退院することになった。でも、退院の日私は、お母さんとお父さんあとお兄ちゃんと咲村先生がこっそり話しているのを聞いてしまった。

「結愛さんの心臓は今すごく弱くなっています。このままだともって6年でしょう」

咲村先生はくやしそうに目を伏せる。

「結愛が助かる可能性はないんですか」

今にも泣き出しそうな顔でお母さんは言った。でも…

「結愛さんの今の状況だとバチスタ手術も、移植も体力の問題でおそらく無理です。だからどうなるかは…」

それを聞いて私は、凄くショックを受けた。自分の心臓のことはわかっていたけれど、流石に中学生の私には重すぎる事実だった。だって私はまだ13歳だ、まだまだしたいことはたくさんある。

大人になったらお酒を飲んでみたいし、将来の夢だってある。死んでしまったらそのどれも叶えられない。
最初はショックを受けていたがだんだん諦めもついてきた。私の人生はこういう運命なんだと。

その後は、お母さんたちが過保護になったくらいでいつもと変わったことはなかったのだけれども、今は一ヶ月前に起きた発作のせいで入院している。

学校の5限目の体育の時間、急に発作を起こし救急搬送されたせいだ。
私の心臓は、まだ大丈夫と信じていたかったけど、タイムリミットは刻々と迫ってきてるみたいだ。
トントンとドアを叩く音がしてドアに目をやると看護師の佐倉さんがご飯を持ってやってきた。佐倉さんは私が小さい頃からお世話になっている看護師さんで、わたしが密かに憧れている存在だ。佐倉さんは、私がご飯を食べてる間に病院内でおきたいろんなことを話してくれる。

今日は、新しく入った新人外科医の話をしてくれた。

「ねぇねぇ結愛ちゃんは、新しく入った先生のこと知ってる?」

とワクワクしたような目で佐倉さんに聞かれた。

「ん〜噂には聞いたことあるけど詳しくは」

私の返事にほうほうと佐倉さんは頷くと

「その先生は外科医なんだけどさ、めちゃくちゃイケメンで今や看護師の中で戦争が起きてるらしいよ」

と教えてくれた。

「そんなイケメンなんだ〜ちょっと会ってみたいかも」

なんて言ってると

「いきなりだけどさ、結愛ちゃんはすきな人とかいないの?」

と佐倉さんはいたずらっぽく聞いてきた。

「そんなのいないよ、まずわたしが心臓病って知っただけでみんな離れていっちゃうもん」

とふてくされたようにおかずをつつきながら答えると佐倉さんは、

「そんなことないよだって希ちゃんかわいいじゃん。ぜったいもててるって〜かわいい結愛ちゃんがそんなこと言ってるとお姉さん嫉妬しちゃうぞ」

と笑いながら言う。
そうだったらいいんだけど、世の中がそんなに甘くないことは私が誰よりも知っている。そんなことをしているうちにご飯を食べ終わり、
佐倉さんは出ていってしまった。