念願の制服に袖を通す。ピンク色の大きめのリボンに、チェック柄のスカート。紺色のブレザー。

 全て頬擦りしたくなるくらい、憧れの制服だった。

 鏡の前でくるんっと回れば、きちんと着れている。制服を着たまま、キッチンに向かえば雅にいは朝ごはんにトーストを焼いてくれている。

 隣にはオムレツも添えられていた。ケチャップで「おめでとう」と書かれている。

 キッチンに居るであろう雅にいにお礼を言おうと、キッチンに入ればいない。

「あれ?」
「どうしたの」

 後ろから急に声がして、腰が抜ける。ヘナヘナと座り込めば、雅にいがくすくす笑う。

 雅にいは、紺色のストライプのスーツを着て、水色のネクタイをしていた。こうやってみると、本当に知らない大人の人みたい。

 メガネもいつもの黒縁じゃなくて、シルバーフレームに変わっている。仕事用なのかもしれない。

 大人って感じがして少し羨ましい。

「俺先に出るから、これカギ」

 差し出されたカギには、私が好きなクマのキャラクターのキーホルダーが付いていた。ふわふわでピンク色が可愛くてお気に入りのやつ。

「無くさないようにキーホルダー付けといたから」
「ありがとう、あ、ごはんも!」
「迷子になりそうだったら連絡して」

 雅にいがポケットからスマホを取り出して、揺らす。私のクマのキーホルダーとは色違いのクマが付いていた。

 単純に、雅にいもお気に入りのキャラクターだったんだ。びっくりした。

 連絡先は昨日のうちに交換した。カギをギュッと握って、うなずく。

「仕事いってらっしゃい!」
「あーやばい、行きたくなくなった。ナミとこのまま家でゆっくりする」
「はいはい、ふざけないで! 雅にい、いってらっしゃい」
「行きたくない」

 駄々をこねる雅にいの背中をぐいぐい押して、玄関まで押しやる。玄関には雅にいの大きい革靴と、私のローファーが並んでいた。

 こうやって見比べると、足大きいな。
 ますます、大人の人って感じがして、こんな対応をしてていいのか悩む。

「じゃあ、いってきますのちゅー」
「何言ってんの、気をつけてね」

 靴を履きながら、雅にいがふざける。ぷいっと顔を背けて答えれば、ぶつぶつと文句を言ってた。
 さすがに、その冗談には乗れない。
 
「乗らないか」
「当たり前じゃん、もう朝からふざけて」
「本気だけどね、いってきます」

 私の髪の毛をひと束掴んで、ちゅっとキスをする。久しぶりに会ったせいか、雅にいのおふざけがひどい。

 でも幼なじみだからだろうか、雅にいのはイヤなわけじゃない。
 他の人なら身構えてしまうのに。
 不思議に思いながら、私も家を出る。
 初めての登校日だ。