甘すぎる生活、でも、そういう同居じゃないってば!
 雅嗣と気持ちが通じ合って、幸せな気持ちいっぱいだった。
 でも、はっきりとさせなきゃいけないことがある。
 雅嗣の行動から、もう疑ってはいないけど。

 シャワーで身体中をキレイに洗い流してから、出れば、リビングで待ち構えていたようにバスタオルを広げている雅嗣。
 雅嗣は、ソファに座って足を広げてから、「おいで」と、私のことを呼ぶ。

 よく考えずに、ソファの足元に座れば髪の毛をタオルで優しく拭いてくれる。
 髪の毛が揺れる感覚が気持ちよくて、うっとりと身を任せていれば、雅嗣は愛の言葉を何度も口にしてくれた。

「髪の毛も手触りがよくてかわいいね、好きだよ」

 今まで言えなかった分のように、好きだよと何度も言われるから、心がむず痒くなってくる。
 そんなそぶり見せなかったのに、と思ってから、考え直す。
 
 よくよく思えば、雅嗣はいつだって私を愛しい目で見つめてくれた。
 そして、嫌がることは絶対にしないようにしていたし、私のことばかり考えてるように行動していた。

「ねぇ」
「んー?」
「私、嫉妬深いから、二股とか、浮気は許せないよ」
「なんだそれ。俺には、ナミだけだよ」

 その言葉をただ信じたいのに、まだあの日の光景が脳裏にチラつく。
 拭いているタオルを避けて、雅嗣を見上げる。
 いつもよりも数倍優しい目で私をじいっと見つめている雅嗣に問いかける。

「女子高生でも、関係ないんだよね」
「ナミならね」
「他の子と図書室でキスしてなかった?」
「するわけないだろ」

 あっけらかんと言い放って驚いた顔をする。
 本当にしてないみたい。
 でも、あれは雅嗣だった。
 私が見間違えるはずはない。

「あーわかった。ベタだな、ナミ」
「どういうこと?」

 一人で勝手にわかった顔して、くくくっと笑って私を膝の上に抱き上げる。
 私はわかっていないのに。

 乾き始めた私の髪の毛を撫でながら、一つ一つ確かめるように言葉にしてくれる。

「放課後だろ?」
「うん、だから、どういうこと?」
「目にゴミ入ったっていうから見てあげた、だけ。断じてキスはしてないし、好意もない。ただ生徒だから優しくしてるだけ。ナミ以外に感情なんて向かないよ」

 言い終わるか、いなかのところで、私の頬にキスをする。
 そして、もう一度ゆっくり頭を撫でて、おでこをくっつけた。

 目と目が至近距離で合ってる。
 嘘はついていないと、目の奥にちゃんと書いてあった。

「信じられない?」

 ぐっと息を飲み込んで、考える。
 信じられないわけじゃない。
 それでも、信じきれない自分もいる。

 悩んでる私の気持ちを読み取ったように、雅嗣は、私のおでこに一度キスをする。

「信じられるようにこれから行動する。俺には一生ナミだけだし、ナミ以外何もいらないし。教師辞めたっていい」
「そこまでは言ってない」
「うん、でも、信じてもらえるようにナミに行動でしめすから」

 真剣な顔で言われるから、頷くしかない。
 こくんと首を縦に振れば、嬉しそうに雅嗣は私を抱きしめた。

「好きだよ」
「私も、好きだよ」
「あーやばい、幸せだ、学校やめない?」

 急な言葉に、戸惑う。
 教師を辞めたって良いは、辞めたかったってこと?
 そう考えていれば、どうやら違うらしい。
 
「ん?」
「ずっと家にいてほしい。やっぱ、家から出ると有象無象がいるから……」
「さすがに学校には通うよ」
「閉じ込めたい、俺以外目に映さないでほしい。新田さんも本当はイヤ」

 私の肩に顔を埋めて、駄々をこねるように口にする。
 困ってしまって頭をよしよしと撫でれば、もっとというように頭を押し付けてきた。
 
 ユイもイヤと言われても、困ってしまう。
 雅嗣のことは好きだけど、ユイは親友として大好きだ。

 どちらか、片方だけを選ぶ、はできない。

「雅嗣?」
「もっと名前呼んで、ナミ」
「雅嗣」
「なぁに」

 心底幸せそうな顔でふにゃりと微笑まれるから、私の心臓が持ちそうにない。

「ユイは別だよ」
「わかってるからイヤだけど、制限してないんだよ」

 ユイの名前を聞いただけで、眉間に皺を寄せる。
 そして、「今は俺だけを見て、俺のことだけ考えて」と言う。
 これ以上、雅嗣のことばかり考えていたら、私の脳みそは溶けてしまいそうだ。