学校帰りいつものカフェのソファ席に座って、いつものレモネードを頼む。
ユイは私がこれから言うことをわかっているような顔でニヤニヤとしていた。
注文が終われば、テーブル越しに体を乗り出す。
「で?」
「でって、なに?」
言わんとしてることはわかってるけど、ごまかす。
何度も来てるからメニューを見る必要はない。
それでも、打ち明けるのは気恥ずかしくて、メニューを開いて指を動かした。
「顔でわかるよ、中学からの親友よ」
「わかる……?」
「自覚したんだ? やっぱ、好きなんでしょ」
きっぱりと言い切られて、胸の内が燃え上がる。
再開した時は、ただのお兄さんだった。
今では……好きな人になってしまった。
私以外に近いのも、気になってしまう。
女の子からの連絡にも耳を立ててしまう。
「恋してますって顔だもん」
顔をペタペタと触ってみても、自分では違いがわからない。
そもそも本当に顔に出てるかは、自分で確認しようがないけど。
店員さんがソッとテーブルに置いて行ったレモネードをストローでかき混ぜれば、氷がぶつかり合ってカランっと音を立てる。
「素敵な人なんだねぇ。ちょっとチャラそうなの気になるけど」
「だよねぇ……クズっぽいところが私も気になってる……」
「女遊び激しそう。脈はありそうだけど、苦労はしそう。しかも、年上でしょ。絶対女慣れしてるじゃん」
ユイも手元のメロンソーダをくるくると回しながら、斜め上を見上げて考え込む。
あーと小さいため息を吐いて「あんたとは正反対」と小さく呟いた。
自覚してる。
恋というのをあんまりしてこなかった。
中学時代にお付き合いした人もいるけど、長くは続かなかったし。
そもそも、好きになった人も、片手で足りるくらい。
でも、高校生なんてそんなもんじゃない?
「ユイは」
「私は彼氏ができました」
「えっ、うそ、だれ? クラスの人?」
「ふふふ、今度教えるね」
ユイの彼氏。どんな人だろう。
まさか夕月くんだったりして、と想像して、それだったらいいなと思った。
他の男子とは違って、ユイが大好きで仕方ありませんみたいな顔をするから。
夕月くんならユイをちゃんと幸せにしてくれるし、浮気も怒鳴ることも絶対にしないと思う。
ユイは、強くて可愛い。
でも、その分、ユイだって嫌な思いをしてきてる。
だから、ユイにも幸せになってほしい。
可愛いは、友だちの贔屓目かもしれないけど。
レモネードを吸い込んで、ほんのりとした酸味を味わう。
ユイの彼氏に思いを馳せていれば、ユイが私の後ろの席を見て「あっ」と小さい声をあげた。
「どうしたの?」
振り返ろうとすれば、私の手をぐいっと引っ張って止められる。
「もう、なに?」
ちょっと大きな声で聞けば、ユイは机の上ギリギリまで頭を下げて必死に人差し指を唇に当てている。
小声に切り替えて「なに? だれ?」と聞けば、首を横に振って答えない。
スマホをたったったっと打ち込めば、私のスマホがバイブを鳴らす。
スマホを開けば『元彼いる』の一言。
会いたくない元彼……?
ユイがケンカ別れか、何かひどい振られ方をした相手だろうか?
想像してみても思い当たる人はいない。
首を捻る私に、ユイはスマホでまたメッセージを送ってくる。
次に届いたメッセージを見て、背筋がぞわりっと震えた。
『ナミの元彼』
私の元彼……。
私の、元彼はただ、一人。
私と付き合っているのに、隣のクラスの美人な子と浮気をしていたトモヤだけ。