振り返ったら


今日は香織と前に話していたtrajectory(トラジェクトリー)のライブに来ていた。



話を聞くと香織の推しはあれだけ騒いでいた
松下悠真ではなく、3人グループ末っ子キャラである
綾瀬大翔(あやせひろと)だとか。



なんでも破壊力のある笑顔と一生懸命な姿が
応援したくなるんだとか。




そして、どんなバラエティー番組でもそつなくこなしてしまう、コミニケーション能力抜群の一之瀬蓮(いちのせれん)。




trajectoryを知るきっかけとなった、グループ1の人気を誇る松下悠真(まつしたゆうま)の3人グループで構成されており仲の良さと歌って踊れるギャップで人気を集めているらしい。




香織とそんな話をしていると会場が暗くなり、まもなくライブの始まりを知らせるアナウンスがなった。




舞台中央に注目していると、私と香織がいる席の後ろの方がライトに照らされ、そこから悲鳴が上がった。
なんと、松下悠真が観客に変装し紛れ込んでいたのだ。



物凄い歓声と共に曲が流れ始め、他の席にも観客として
紛れ込んでいた綾瀬大翔、一之瀬蓮、松下悠真が
舞台を目指し観客用通路をファンサービスをしながら歩き始めた。




私と香織がいる席の前の観客用通路を松下悠真が通った時、私を見た松下悠真の目が一瞬大きく見開き驚いたような顔をした様な気がした。
が、松下悠真は何事もなかったかのように手を振り舞台を目指し歩き続けた。



すると後ろの方から

「きゃー今、悠真と目が合ったー!!!!やばいんだけど、もうむり」


という声が聞こえてきた。


どうやら私を見て驚いたような顔をしたのは私の勘違いだったらしい。


これじゃあまるで私もすっかりファンみたいだ。





…………






「もう本当によかったー。大翔のビジュ凄かった!
初ライブ一緒に来てくれてありがとう紗弥!!」




「こちらこそだよ、誘ってくれてありがとう」



「で、で、どうだった?本物の松下悠真かっこよかったでしょ」


「え、んー、まぁ、それなりにかっこよかった、かな?」




「なにー?その答え!私知ってるんだから紗弥、松下悠真に釘付けだったでしょ?!」

そう言ってニヤニヤしてくる香織に対して
苦笑いを返した。
確かに、香織の言う通り気付けば松下悠真ばかりを目で追っていた。あまりのミステリアスでもあり笑顔とダンスとそして何よりも癖になってしまいそうな歌声に目が離せなくなっていた。



そんな話をしていると、私達の席の退場のアナウンスがなり、香織と共に席を立った。


「私ちょっとお手洗い行ってくるね」


出口までの途中にあるトイレを見つけると
香織にそう声をかけた。



「わかった!じゃ、ライブ会場入った入り口のところで待っとくからゆっくり来てね」



「ありがとう!」





………



「あれ、どっちから来たっけ、確かにこっちだと思ったんだけど」


お手洗いを済ませたものの私は道に迷って
しまっていた。



気付けば見覚えのない場所まで来ていた。



そんな事を考えていると、いきなり黒いパーカーにフードを深く被り、マスクとメガネをした身長の高い男性に腕を掴まれ、引っ張られていた。



知らずに立ち入り禁止の場所まで来ていたのだろうか。
そんな怒られるかもしれないという恐怖と見ず知らずの人に腕を掴まれ引っ張られているという怖さで一言も声を出せずに歩いていると、控え室と書かれた部屋に連れ込まれた。




ドアを閉めるといきなりもの凄い勢いでハグされた。


私は見ず知らずの人にいきなりハグをされた恐怖でパニックになりかけていると



「紗弥だろ?会いたかったー、ほんっっとうに会いたかった。どうして連絡してこなかったんだ?まさか、
携帯水没させたとか?まぁ紗弥ならやりかねないよな」



と嬉しそうな声をしながら言ってくるが、私は何故自分の名前を知っているのかと思った。





「あのー、まずは離していただけませんか?」




「え、あー、ごめん、久しぶりでもいきなり抱きつかれたらびっくりするよな、ごめんな、」


そういうとその人は腕の中から離してくれた。




 「あのどうして私の事知っているんですか?何処かでお会いしましたか?」





「あー、こんな変装じゃわからないか、俺だよ、
幼馴染のゆうって言えばわかる?」



深く被っていたフードとメガネ、マスクを取り外しながらそう言った。





でも、それでも私はわからなかった。何故だか懐かしいような気がしたが、それはこの人が芸能人であるからだと思った。




「あの、本当にわからないです。あ、もちろん、芸能人としての松下さんの事は知っているんですけど、、、
その、誰かと勘違いされているのではないかと、、
私、友達待たせているんでもう行きますね!あ、この事は誰にも言いませんから!それじゃ、」




私はあまりの気まずさに逃げ出すようにその場を駆け出していた。


「え、あ、おい!
待って、さよ!」